目を覚ますとシェンリの顔のどアップという素晴らしい目覚め。
しかしそれ一緒に「ああ昨晩はしちまったんだな」と思うわけですよ。一応両想いで、恋人同士といっても差し支えのない関係かもしれないけどそれにしたってやっちまうのはどうかと思う。
「おはよう、シェンリ。」
頭を軽くゆすって起こす。
「ん〜おはよう。」
寝ぼけ眼で俺を見ながら言う。
どうやら今どういう状態なのかあまり理解していない模様。
どうしたものかと考えていると、ドアが開く。俺の部屋は物置を改造したもので、鍵はない。
「ら〜んす〜」
クリムが顔を出した。
で、俺たちを視界にとらえる。
裸というわけではないけど、一緒に隣り合ってベッドに座っている俺たちを。
あからさまに一夜の情事を終えた次の日の朝丸出しの俺たちを。
その藍色の大きな瞳で見ているわけだ。
「……」「……」「……」
三人三様に押し黙る。
気まずいぜこの空気は。
昔父さんにシェンリのこと抱いてるのをを見られた時よりなぜか気まずい。
尻尾を振り振りクリムは無言のまま俺たちを見ている。
俺はというと頭の中まで冷や汗びっしょりだ。
シェンリが何を思っているかは分からない。
とりあえず、こいつは妹の気持ちを知りながら抜け駆けしたわけだ。
「二人で何してるにゃ?」
あからさまに不機嫌な口調で言う。
「えっとこれはだな……」
「ランスはお姉ちゃんを抱いたにゃ?」
「……抱きました。」
このまだ幼い女の子が抱いたなんて表現を知ってるあたりクルツがどれだけ性に関しておおらかなのかご理解いただけるだろう。まあ売春宿とか公然プレイはした瞬間ツィリアさんに裁かれるけど。
「ランスはお姉ちゃんのこと好きにゃ?」
「好きですハイ。」
けど俺はお前のことも好きなんだぜ? 本気の話。
「クリム、喜ばしい情報、ランスはうちら二人両方のことが好きなんだって。」
嬉しそうにシェンリが暴露する、そう言うことは俺の口から言わせろよ。
それに反応したクリムが俺を見る。
「……ランス?」
ウソついたら爪で引き裂くぞと言わんばかりの怒気のこもった視線が俺に飛んでくる。
この二人、運動能力だけなら俺よりずっと高い。
「本当、俺はお前たち二人とも、異性として恋人として見たいと思ってる。」
クリムが大きなため息をつく、ついでに怒気も引っ込む。
「じゃあまあ……抜け駆け以外は許すにゃ。」
「ありがとうございます、クリム様。」
シェンリは冗談めいて深々とお辞儀をする。
「ただし抜け駆けは許さないにゃ、お姉ちゃん今日はランスに触れちゃいけないにゃ。」
きつい条件をクリムがつける。
ワーキャットの愛情表現の方法の一つがスキンシップだ。
特になついている相手に対して触れることは彼女らの喜びだったりする。
それを禁止されるというのは結構きついだろう。
「じゃ、二人とも起きて、朝ごはんにゃ。」
笑顔でそう言った。
たまにこいつの笑顔が腹黒く見えるけど、今日のはまた格別だ。
朝食を食べると二人はすぐにバイトに行ってしまい、アレミネルさんとルーティさんも仕事に行ったので俺一人。
今まで仕事人間で生きてきた分、こうやって仕事を禁止されてしかも自宅謹慎まで命じられるとなると、俺はかなり暇だった。
退屈しのぎに今までに読んだことのある本を読んでみる。
農作基本書、牧畜基本書、建築基本書。
すべてこのクルツで一般教養として習う学問の参考書。
俺はこれらの学問を十二歳で一通り修めている、この参考書を読むのも結構久しぶりだ。
このほかの学問を習いたいなら誰かに教えを請うしかない。
俺の場合父さんに魔術を、ツィリアさんに法律を学んだ。
しみじみ当時を思い返しながら平穏に本を読む、
しかしその平穏は長くは続かない。
「ランスぅ〜〜〜〜〜〜」
玄関のドアを乱暴に開き、この家に俺の名前を呼びながら男が飛び込んでくる。
俺の双子の兄、ロナルドだ。
俺の父である人間の領主「二代目」クロードの二男。
長男と三男(俺のことだ)に比べ、出がらしのような落ちこぼれ。
まっすぐ俺の部屋に向かってくるのがわかる。
「構築……格子、媒体部屋の入り口。」
魔術によって入り口に不可視の格子を形成、俺の魔力が持続する限り維持できる侵入者対策だ。
寝るときに使わなかったのは限界が十分と短いから。
「ランスランスランすぶぅっ!?」
がぃいいいいいいいん
思った通りに格子に引っ掛かる。
予想通りロナルドだった、一体何の用で来たのやら、それと仕事はいいのだろうか。一秒も考えずに良いに決まってると自問自答、父さんの助手なんか本来必要ないんだから。
俺は大仰にため息をつく、もう少し兄らしくなってほしいもんだ、能力はともかく態度が。
見た目は俺より三つくらい上で、ハロルド兄さんより上に見られることもあるけど、れっきとした俺と同い年、
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