第十四話 たまには野郎だけでもいいじゃない

「さて……こんなもんかな」
荷物をまとめて、作業をするのには必要不可欠な炉の火を落とす。いつもは閉店しても火は落とさないが、長い間家を空ける場合は安全のために火を落とす……夜逃げじゃない、決して、断じて。

「もう暗いな……」
思ったより荷物をまとめるのに時間がかかってしまった。

「明日はタニアルに頼んである花を受け取って……教会で聖水を貰って……診療所で薬を受け取るか」
改めて予定を確認する、馬車の手配もしたし……

「本でも読んで時間を……」


コンコン

「ん?」
来客? 裏口からか

「はーい」

ガチャ

「よっ」
「ガルザ! どうした?」
「ついでにおれもいるぞ」
「ヴァリー!」
「ついでのついでに私も」
「デック!」

いつもの飲み友達がそこにいた、仕事終わりなのか仕事の恰好だ。

「お前、近いうちにここを発つんだろう? その前に飲みに行こうと思ってな」
「ガルザが言い出したのか?」
いつもは誘われる側なのに珍しいな……
「おれもデックもガルザが言い出しっぺなのには驚いたな〜……で、行くか?」
「もちろん!」
「では、行きましょうか」
読もうとしていた本を本棚に戻して、戸締まりをして、意気揚々と夜の街に四人で繰り出した。



「この酒場は靴脱ぐのか……」
靴の紐が複雑なガルザは非常に面倒臭そうに紐を解いている。

「知人の紹介によれば、この店は東洋の方の店の形式らしく
lt;ザシキ
gt;と呼ばれるらしいですよ」

デックの話を聞いて思い出した。東洋の酒場はイザカヤと呼ばれ、ザシキという場所が設けられているらしい。この酒場も最近出来たらしく、その様式を取り入れているんだろう。

「ってかガルザ、言い出しっぺなのに場所は初めてくる場所なのかよ」
「ガルザが飲みに行かないか? って言い出したのは確かだけど、場所はデックが任せて下さいって言ったんだよな」
「ヴァリーは何もしませんでしたね」
「ぅぐ……」
言い淀んでしまったヴァリーは空気を正すためにコホンと咳ばらいをし、手元にある品書きを手に取った。

「おれは……この
lt;アツカン
gt;ってのにするかな……ほいガルザ」

「見たことないものばかりだが……
lt;ウメシュ
gt;にでも挑戦してみるか……デックは?」

「知人の紹介によると、
lt;イモジョウチュウ
gt;がオススメと聞きました。 私はそれにしましょう……ケルトは如何しますか?」
「僕は洋酒で」

「「「…………」」」

「え? なにその『空気読めよ』的な視線は?」

「いや……だってな」
「みんなで新しい味を楽しもうって時に……」
「一人だけいつもと変わらないものを頼むというのは如何なものかと……」

「あ……そゆこと」
いたたまれない気持ちの中、僕はポツリと
lt;ショウチュウ
gt;と呟いた。


〜数時間後〜
「やんやんでれ〜♪や〜んでれれ〜♪」
酒が入り、ヴァリーがなんかものっそい物騒な歌を歌いだした。
「ヤンデレといえば……ケルト」
「ほえ?」
唐揚げを食べていた手をとめてデックに向き合う。こいつの中ではヤンデレと聞くと僕を連想するのだろうか?

「あなたはヤンデレな女の子に愛されていますが……夜はよく眠れてますか?」
「…………はい?」
僕がヤンデレな女の子に愛されてる? 全く自覚がないな……。

「いやいや、誰の事?」
「リアですよ」
リアさんが?いやいやいや……ヤンデレの意味は僕も知っている。時々ヴァリーから借りる本に書かれているから覚えてしまった。とすると……

「デックはリアさんが僕を病的に愛してるっていうの?」
「はい。 最初は少し違和感を覚えるだけでしたが、ヴァリーから借りた本にヤンデレという記述があったのを見てピンと来ました」

「で、でもさ! 仲はいいけどヤンデレのそぶりなんて見せてないよ?」

「では、これを見てください。 リアのおまじないノートです」

デックは懐から一冊のノートを取り出した。おまじないというのはノートに仲良くなりたい人の名前をたくさん書くことでその人と仲良くなれるというものだ。

「リアさんがおまじないだなんてかわいいところがあるんだね」

ペラッ

『ケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトさんケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルトケルト旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦那様旦
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