「………………」ビショビショ
「ご、ごめんなさい……。 あたし、一度走ったら急に止まれなくて……」
「知ってるよ。 見た感じそういう種族だしな」
全身を覆う白い羽、走るのに適した脚、赤く染まったトサカ。どれをと
っても彼女がコカトリスという魔物に属している事を示していた。
ちなみにタニアルに至っては先に帰らせた。最後まで僕を心配していてくれたがまた後日会う約束をしたら納得してくれた。
「ところで、名前を聞いてなかった。 僕はケルト、君は?」
「り、リーニっていいます」
コカトリス少女ことリーニの第一印象は少し落ち着かない感じだった。コカトリスという魔物の種族が元々臆病だから仕方がないのだが……なにぶん見てて違和感がものすごい。
「リーニ、ヒト化の術は使えるか? さっきここにいた彼女も使っていたものだけど」
「は、はい……えいっ」
ポンッ、という可愛い音と共にリーニの見た目が変化する。白髪に赤毛のアクセントのある髪、純白の絹のワンピース、足はサンダルとなっていた。ヒト化したとはいえ、人相に変化は少ないようだ。これは、どの魔物にも言える事だが。
「出来るんじゃないか……コカトリスが走るのはよく聞くけど、街中で走るのはよろしくないぞ?」
「は、はい……すみません」ガクーン
「い、いや……完全否定してるわけじゃないんだよ。 ただ、街には子供や女性もいるわけで、小柄なコカトリスといっても速度はあるから少し危ないかなって思っただけなんだ」
「こ、今度から気をつけるので……」
「そうだな、街中で走る時は人がいない時にすればいいな」
子供にでもぶつかったら危ないから、納得してくれてよかった。日も沈みかけてるし、そろそろ帰るか……
「じゃあ、僕は帰るよ。 帰り道は気をつけて」
「はい。 また会いましょうね」
「うん」
風邪をひかないように小走りで家の方へ走る。ただ濡れた服は案外面倒くさい、買い物袋は紙袋なので気を遣うし、かといって歩く速度を遅くすれば風邪をひく。
「どうしたら……いいんだ」
とりあえず早歩きで家を目指すが、歩く度に靴がガポガポ音を立てて鬱陶しい。護身用に持ち歩いている剣も今はただのおもりにしかならない。
「面倒だ……」
僕の家……というか店は街の中心地にある。さっきタニアルやリーニと別れたのが町はずれだから、相当歩かなければならない。
「はぁ……巡回中のガルザでも捕まれば、荷物持たせるのになぁ……」
その望みは薄い、今日はあいつも非番だから、今頃は自宅で睡眠を補給しているだろう。
「仕方ない……頑張るか……」
着実に進もうと決意し、歩みを進める。すると……
「ケルトさん? どうかしましたか?」
「え?」
後ろから掛けられた声に振り返ると、双子エンジェルシスターの妹の方であるリアさんが不思議そうな眼でこっちを見ていた。
「リアさんか……こんばんは」
「ええ、こんばんはです…………ってずぶ濡れじゃないですか!? どうしたんですか?」
「ちょっと今日は水難みたいで……」
被害を一通り説明してもよかったが、そんな気力は残ってなかったし、最近リアさんに他の女性の話を振ると背筋が凍るような震えを感じて仕方がないので黙っていた。
「お荷物、お持ちしましょうか?」
「え? いや、流石にそんなことは……」
「気にしないでください。 私たちの仲じゃないですか」
言うやいなや、リアさんは僕の紙袋を一つ手に取り平行して歩き始めた。助かったには助かったが、どこか情けない感じがするな……。
「〜♪」
まぁ、どことなく嬉しそうだから放っておいてもいいか……。
「へっくし!」
とりあえず家に帰ろうか……こう寒いとマジで倒れる……。
「つ、着いた……」
「お疲れ様です。 まずは拭きましょうか?」
テーブルの上に紙袋を置くないなや、リアさんはどこからか持ってきた手拭いで僕の髪を拭ってくれた。
「ふぅ……やっと落ち着ける」
「災難でしたね。 風邪をひかないようにしてくださいね」
ワシワシ……ワシワシ……
風邪引くなこれは……明日は臨時休業にするとして、今夜のうちに張り紙を貼っておくか……
「そのコカトリスは許せませんね……ケルトさんが体調崩したらどうするつもりなんでしょうね……」
ワシワシ……ワシワシ……ワシワシ……
明日の朝に熱が出るのを見越して今夜のうちになにか簡単なものを作っておくか……
「ケルトさん……こんなに冷たくなって…………絶対に許さない」
ワシワシ……ワシワシ……ガシガシ!
「痛ッ! ちょ、ちょっとリアさん!?」
「許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない」
ガシガシガシガシガシガシガシ!
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