それは、なんの変哲もないいつも通りの日常だった
「―――なんだこれ?」
何気なく拾ったその缶バッチには、可愛らしく描かれているキャラクターがいた
「…蜘蛛女?」
なんとなく気になったその缶バッチをポケットに入れて、俺は歩き出した
・・・
仕事をしている殆どの人が体験した事があるだろう、仕事へのモチベーションの低下
自分はそれも全部コントロールできると思っていたが、そんな事はなかったようだ
『少し長めの休暇をとってリフレッシュしてくれ、休暇後に頑張ってほしい』
今のご時勢、そんな状態なら直ぐにクビを切られるのに、俺の勤め先ではリフレッシュ休暇を取らせてくれた
嬉しい反面、申し訳なく情けない反面だ
―――気持ちを切り替えて、今後も仕事をしていけるのか?
―――そもそも、本当にリフレッシュしただけで何とかなるのか?
そんな暗い気持ちを抱えながら、リフレッシュ休暇初日を迎えたのだが…
「…なにやればいいんだよ」
リフレッシュ休暇をもらったが、旅行に行ったりキャンプに行ったりなど色々あるが、生憎全く浮かばない
とりあえず散歩でもしてみたが…
「全くリフレッシュできねぇ…どうすりゃ良いんだが…」
この後酒飲んで寝て、いつも通りにまた起きて―――
そうなったらリフレッシュ休暇の意味があるのだろうか?
そんな事を思っていた、その時だった
「ん?…なんだ?」
上着付近でなにかの気配を感じた
何かがいる様な、人間ではない何か別な気配を感じた
「…そーいや、あの缶バッチ」
拾った缶バッチを思い出し、もう一度手に取る為に近づいた―――
「!?」
その時だった
気が付いたら、体中に何かが巻きついていた
そして、さらに…
「あら?もうばれちゃったの?」
さっきより明確に何かの気配を感じて、その方向を向いたとき、そこに居たのは―――
「…」
「ん?どうかしたの?ねぇ」
言葉を失う位、美人で素敵な―――
「ぎ、」
「?」
「ギャアアァァアァァァァアァァァァァァァァアァ!!!」
下半身が蜘蛛の、化け物だった
・・・
「失礼しちゃうわね!もう!」
「スミマセンでした…」
下半身が人外の美女に拘束され、現在ミノムシ状態な俺
そして…部屋中に蜘蛛の糸があったりなかったり…
「そもそも蜘蛛女じゃなくて、ア・ラ・ク・ネ!」
「いや、そんなん知らないし…」
「ゲームとかやってるなら名前くらい聞いた事ないの!?」
「そもそもそこまでゲームやりませんので…」
ぷりぷり怒るって言うのは、今の彼女のような怒り方なのだろうか?
しかし、美人なだけじゃなく可愛くもあるのだと思わされる
彼女と話していて、いくつか情報は得た
まず、彼女は人間ではなく、アラクネという蜘蛛の魔物娘らしい
魔物娘とは、言わば人外の女の子で、現在別の世界では魔物やモンスターといわれている存在は全て彼女のようなメスの個体しかいないらしい
その為、男性を求めて別世界に移住したりもあるようだが…
「んでなぜに缶バッチに?」
「そのままで来れないからって、特殊な結界空間を作ってもらって移動してたのよ。…なんで道端に落とされてたかは解らないけど」
そう、なぜ缶バッチ姿になっていたのか、なぜ落ちていたのかを尋ねたが、落ちていた理由は本人も解らないようだ
「そんな訳だから…もし良かったらしばらくここに居させてくれない?」
普通なら即効で断るお願いだ
見知らぬ人―――人なのか?―――を泊めるなんて、女性であっても何があるか解ったものではない
だが、俺の口から出たのは…
「…まぁ、良いです、けど…」
肯定の言葉だった
彼女には悪いが、彼女が居る間、まぁ多少はリフレッシュになる、そういった邪な気持ちがあるのだが―――
「ありがとう!」
嬉しそうに、少し涙目になりながら俺に抱きついてくれる彼女を見ていたら、放っておけなくなった
「あの…その前に降ろして…」
彼女のおっぱいの感触を感じながら、そう訴えた
・・・
彼女との共同生活はとても新鮮なものだった
「私、火が苦手で…」
「なら俺が料理だね」
―――人に食事を振舞うのがこんなに楽しいとは、知らなかった
「…あーぁ、女性にしてもらいたい事が2つも出来なくなっちゃったか…」
「2つ?」
「手料理作ってもらうのと膝枕…って俺は何言ってんだか」
「なら…代わりにこれでどう?」
そう言いながら、彼女はハンモックを作ってくれた
「膝枕じゃないけど、膝枕っぽい位置になるわよ?」
「おぉ!ありがとう!」
―――彼女を寝転がりながら見上げると、幼く見えるとは思ってなかった
「そーいやこのミノムシ…寝心地が…」
「アラクネの糸は服を作ったりするのに便利なのよ」
「
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