―――人は、なぜ飛べないのだろう?
昔から抱えていた、疑問と夢
人に言えば笑われ、それでも憧れた
―――自分の手で空を飛びたい
自分で羽ばたき、自由に大空を舞いたい
そんな夢を持っていた少年だった自分も…大人になっていくにつれてそんな夢を見なくなっていった
・・・
なんとなしに空を見上げ、溜息をつく
広大に広がる空を見ながら、自分の将来とかに妙な焦りを感じる
やりたい事がある訳でもなく、ただただ惰性に生きる事に意味はあるのだろうか?
「…良いよなぁ、自由に飛べて」
鳥を見ながら、愚痴を零す
実際鳥には鳥の大変な部分があるだろう
が、それでも自由に空を舞う姿に嫉妬を覚えてしまう
そんな事に虚しさを感じ、歩き始める
―――果たして、このままで良いのだろうか?
何の根拠もない焦り
このままで一生生きていくのが良いのか、もっとすべき事があるのではないのか…
実際自分が何をしたいのかもわからない事も含めてなのだろう、焦りが生まれる
このまま我武者羅に働くなり勉強するなりが出来ればいいのだが、生憎そういった性格ではない
むしろ考え込んでしまい、勝手にネガティブになるのを自覚している
が、それでも考えてしまうのだ
救い様がないとはこの事だろうか
そんな事を思っていたら、ふと思ってしまった
「山行こう」
・・・
何を思ったのか自分でも解らない
が、山へ行こうと思ったのだ
恐らく、何らかのTVとかの影響だろうか
山や自然に行けば、気分が変わる…または普段と違う事をすれば特別なことが起きる
そんな事、ありはしないはずなのに
「なんで…登ってんだろ…」
汗をダラダラ掻きながら頂上を目指す
…最も、半日で往復できるような場所だからそんなに大した距離ではない筈なのだが
「日頃の…運動、不足…ってか…」
だが、もう体が動かなくなってきている
それでも、頂上までは何とか行こうとした
「そんなに疲れて、だいじょーぶ?」
と、突然声がしてきた
辺りを見渡しても、誰もいない
「こっちこっち」
と、上から声がしてきた
見上げると―――
そこには鳥女がいた
・・・
「…こりゃ夢か?」
木の上にいた鳥女を見ながら、そう漏らす
「残念だけど、夢じゃないよ」
そう言いながら、鳥女は降りてきた
「なんかずいぶんと疲れてるみたいだね〜大丈夫?」
背丈は向こうのほうが小さく、一回り位小柄だ
下から顔を覗かせるが、可愛らしい上目使いである
「…あ、あぁ多分…」
「きちんと水飲んだほうがいーよ?」
彼女の指摘があるまで、今まで水分を取ってなかったのを思い出した
「あ、あぁ…ありがとう」
そう言いながら、水筒に手を伸ばしながら考える
―――一体彼女は何者なんだ?
なぜ手に羽が生えている?なぜ足がかぎ爪なんだ?なぜ可愛い…って、これは違う
「あ、もーすぐ頂上だよ」
そう言いながら彼女は歩きながら付いてくる
道を進めば、開けた場所に出た
そこは―――頂上
あまり高くない山だが、眺めは悪くなかった
「…もっと高い所から見れたらなぁ」
不意に零れてしまう言葉
「…行ってみる?」
「は?」
と、鳥女が言う
「もっと高い所」
・・・
―――それは絶景としか言えなかった
「うわぁ…」
風もとても強く、彼女が足を放したら一貫の終わりなのに、興奮していた
「みんなちっちぇえぇ…」
「空気持ち良い!?」
「あぁ!最高だ!!」
彼女に掴まれ、空高く上昇したその場所は、飛行機が飛んでいる高度と同じなのだろうか
「俺…今空にいるんだ…」
感動のあまり嬉しさで一杯だ
昔からの夢、それが叶っ―――
「…」
―――てはいない
それをヒシヒシと感じ始めた
自分の夢は、ここに『自分で』羽ばたいてくる事だった
が、そんな事は一生叶わない、そんな事を夢見るのは子供の内と、自分の中に押さえ込んでしまっていた
ふと、気付いた
―――焦りの理由は、これだったのかもしれない
自分の夢がないとか言いながら、自分で壊してしまっていて、勝手に選択肢を狭めていた
「どうかしたの?」
心配そうに声をかける彼女を見やり、彼女の翼を見やり、決心した
「大丈夫…それと」
一呼吸を置いて、彼女に告げる
「ありがとう…君のおかげで夢を追える!」
彼女は解らないそうにしながらも、笑顔を向けてくれた
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