俺得物語フォーティーン


―――目の前に集中する
今、この瞬間瞬間の思考を纏め、それを形にし、この修羅場をどうにかしようとする

目の前には―――

「…ダメだ、思いつかねぇ」

白紙の画面
一文字も進まない原稿がある

「なんかインスピレーションががががが…」

変な事を吐きながら頭を掻き毟る
―――そんな事をしても浮かばないのは分かっているのに

「なんだかなぁ…」

そんな事を言いながら進まない原稿を睨む

「…ダメだ、諦めよう」

そう言いながらPCを消し席から逃げようとするが―――

「こぉら!もう少し頑張んなさい!」

横から小さい怒鳴り声

「もう少ししたらなんか浮かぶかもしれないでしょ!?」

「とは言ってもだなぁ、かれこれ1時間は画面とにらめっこしてるんだぞ?」

小さい怒鳴り声とは矛盾しているその発声源を見やる
そこには、小さな少女

いや、小さすぎる人外がいた

手の平サイズのその少女には羽が生えている
羽の他に小さな本や絵の具と筆、小さな楽器を近くに置いているその少女は可愛らしいその顔でこちらを睨む

「まだ45分しか経ってないから!もう少し頑張んなさいよ!締め切りはドンドン迫ってるのよ!」

「細かっ!…わかったよ、頑張ってみるから騒ぐな…」

「…が、頑張ったら、ご褒美あげるから…頑張んなさいよ」

「…なぜだろう、やる気が削げた気もする」

「ちょ!酷い!」

この少女とこんなやり取りをしてもう何度になるだろう

ふと、最初のやり取りまで意識を飛ばしてみよう

・・・

あれは、まだ作品を書き始めて間もない頃だっただろうか
色んな発想が出ては文章に書き上げようとして、上手くいかない

そんな事さえ楽しめていた時だった筈だ

「…なんか違うんだよなぁ」

楽しい筈の創作作業に、なんだか軋みが出始めてきた
書きたい事が上手くまとまらないだけでなく、何が書きたいのか分からなくなっていた

「…あぁ〜つまんねぇ」

いっそ書くのを辞めてしまおうか
そもそもお金をもらってる訳じゃないし、趣味と言えば趣味なのだ

そんなに真剣にならなくてもいい事だ

「もぅ辞めちまおうかなぁ」


「そんなの勿体無いよ!」


突然横から小さな怒鳴り声が聞こえてきた

「へ!?」

その方向を見ると、小さな妖精の女の子みたいなものがいた

「…幻覚?」

「ちょ!酷い!」

・・・

「リャナンシー…ねぇ」

彼女の説明を聞きながら、俺は彼女の周りを見やる

本やら楽器やら筆やらが彼女の近くに散乱している
―――芸術の妖精、芸術の才能与える天使

才覚あふれる者につく、才能の象徴

それがリャナンシーらしい

「貴方、原石が間違いなくあるわ!」

眼を輝かせて説得しようとする彼女
しかし―――

「って言ってもなぁ…どうせ趣味だし」

たかだか趣味に力を入れても、何があるというのだろう

理想はある
趣味や好きな事で生きていけたらどんなに良いのだろう

けど、そんな事が出来るわけがない

「…貴方は、好きな事を諦めるの?」

ふと言われるその言葉

「本当に好きなら、諦めないで頑張ってみようよ!私も手伝うから!」

「…なんでだろう」

その言葉に、勇気付けられた
彼女の真剣なその表情、パタパタと飛びながら俺を励ますその姿は、まさに妖精でありながら天使だった

が―――

「やる気、削げた気がする」

つい、意地を張って言ってしまった

・・・

「ホント…趣味もバカに出来ねーな」

現実に思考を戻し、ふと零す

「…続けてよかったでしょ?」

彼女が微笑みながら俺に語りかける


あれから彼女に色々なアドバイスなり何なりを貰いながら、ずっと作品を書き続けた
書き続けた結果、俺はまだまだ無名ながらも作家として活動している

昔からある継続は力なりとは、まさにその通りだと思わされた
最も、彼女からのアドバイスとかがないと未だに良い物が書けていないという意味では、まだ作家ですらないのかもしれない

「さて!そろそろ新しいの書いていこーよ!」

「それは解ってるんだが…どうも良いのがしっくり来ないんだ…」

「なら…」

そう言いながら、顔を赤くする彼女
―――リャナンシーと交わると、創作の才能を手にすると言う

が、悲しいかな、自分は交わっても中々良い物が書けない時もある
とは言っても、彼女との交わりは確かに気分転換にもなるし夢心地になれる

そしてなにより―――

「喜んで…マイワイフ」

妻を抱きたくない男なんていない

―――後日、新人大賞とかを取る事になるとはこの時は思ってなかった
13/07/26 04:37更新 / ネームレス
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