「あったかいな…」
「あったかいね…」
俺は彼女と二人で寝ている
彼女の毛皮に包まって、二人で温まりながら
「君がいるからあったかいんだよ」
彼女をそう言いながら抱き寄せる
―――赤くなった顔が可愛らしい
「でも貴方といるとドキドキする…あったかいし幸せ…」
彼女に言いたい事を言われてしまった
「ふふっ…早い者勝ち、だよ♪」
彼女の笑顔に俺は癒される
・・・
出会いは、冬の海での事だった
何もかもしんどくて辛くて仕方なくなった俺は、なんとなく海に行きたくなった
死にたかったのかもしれない
だけど―――死ねなかった
目の前に突如現われたアザラシのコスプレをした魅惑の女性
しかも、気を失って倒れている、漂流物のような状態
「…え?これコント?」
そう思っても仕方ないくらいに、唐突だった
・・・
「それから私を拉致って―――」
「せめて保護にしようよ?ね?」
泣きそうになりながら彼女に言う
―――あの後、直ぐに彼女を連れて家に帰る事になった
眼が覚めた瞬間―――
「おなか…すいた…」
などと言う彼女をなぜかほっとけなかった
家について、改めて彼女を見た
―――なんていうか…非常に言いがたい格好だ
「ん?私になんかついてるか?」
「いや…べつに…」
これ、誘拐にとかにならないよな?
そんな事を思っていたときだった
「…寒い」
「へ?」
彼女が突然寒いと言い始めたのだ
「…やっぱ毛皮少し破けてる…寒い…」
そう言いながら、にじみ寄る彼女
「…あのぉ…近すぎない?」
「…寒い…」
今にも泣きそうな彼女をみて―――
「こうしたら、あったかい?」
気がついたら、俺は抱きしめていた
・・・
気がついたら彼女を抱きしめていた
それは毛皮越しだけどあったかくて、良い匂いもして―――
とても幸せだった
「…ん」
彼女も気がついたら甘えてきていた
顔を胸に押し当ててスリスリとしているその様はまるで猫とかのマーキングにも思える
―――そのたびにあたる彼女の胸が柔らか気持ち良い
「…たりない」
そう言いながら、彼女は毛皮を脱ぎ―――
「…へ?」
その下は素っ裸だった
「…え?」
「こっち」
そう言いながら、彼女は俺を毛皮の中に入れようとする
「いや、二人は入れないんじゃ…」
「いいからこっち」
とてもはっきりと、しかも睨みながら言うので渋々言う事を聞く
「…はいっちゃった」
が、心配は杞憂で、二人無事入った
「これで…もっとあったかい」
その時の彼女の笑顔は―――
・・・
「んで、それからこのザマか…」
「いやだった?」
そう言いながら、腕枕を要求する彼女
彼女を抱き寄せて、こう思い出す
あれから、死にたくなる事もないし、辛いのも軽減された
あぁ―――そうか
「いや…」
あたためてもらったのは―――
「―――いやじゃないよ」
助けられたのは、俺の方だ
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