「…天にいます我等が主よ、なんてな」
なんとなく言いながら、俺は教会の中を見る
―――なんとなく見付けたからって教会に入るのはこれが初めてだ
「しっかし…こう教会ってのは…ど「どうしてこうも静かなのか、ですか?」
その言葉にギョッとした
ここに入る時に声を掛けたが、誰もいなかったのだ
それが突然、音もなく突然後ろに現われたのだ
驚かない方が無理なものだ
「驚かせてしまってごめんなさい」
フフッ、っと可愛らしく、でも美しく笑うシスター
そんな表情にドキッときた
「教会へようこそ、迷える子羊よ…今日はどんな悩みをお持ちですか?」
・・・
シスターの案内を受け、教会を見て回る
「それにしても…あなたも不思議な方ですね」
「え?」
「こんな小さな教会以外にも大きな教会もありますのに…」
そう言いながら、彼女の後をついていく
「いや…なんとなくここの方が興味わきますから」
なんとなく、この小さな教会のほうが親しみを持てる
小さくとも立派で、逆に誰も見向きもしないのが不思議なくらいだ
「そうですか…」
そう言いながら微笑むシスターに見惚れそうになる
「そ、そういえば珍しいですよね!今時シスターやってる若い人なんて!」
「神の道に若いも老いもありませんわ」
そう良いながら、最後の部屋に着く
「ここからの見晴らし、中々いいですよ?」
そう言いながら部屋を進み、ベランダに着く
「…」
息を呑むとは、この事を言うのだろうか
―――そこには、普段住んでるはずの街が、普段以上に美しく見えていた
「…なんで、人はこんなにも素敵な風景を見ようとしないのでしょうね…」
その言葉で、意識がここに戻ってくる
「みんなそんなに生き急いで…何がしたいのでしょうか…もっと大切な事がたくさんあるのに…」
「…でも、今の世界がそう出来ているから、仕方ない気も…」
「本当に」
そこで彼女は言葉を切り
「本当に、それだけが世界なのでしょうか?」
そう言いながら自分をみやる彼女には、とても迫力があった
「それだけが…世界だと思いますか?」
「いや、だって…実際働いて食ってかないといけないし、それに…」
彼女の真剣な表情に、しどろもどろになってしまう
「…もし」
と、彼女が口を開く
「もし、他の世界を見られたら…その生き方を出来ると知ったら…あなたはそれを選びますか?」
そう言いながら―――彼女は自らの本性を現し始めた
・・・
「…ダークプリースト」
それが、彼女の種族らしい
「私達は…神に仕えています」
彼女の独白が始まる
「幼い頃から、母に教わったこの生き方を…私は変えることがありませんでした。この生き方こそ正しいと思ってますから」
しっかりと、はっきりと言い切る
「人間達に愛と快楽を教え、あなた達風に言うなら…肉欲に塗れた堕落した生活へ導くのが私達の仕事です」
けど、と彼女は言う
「人々に、それを教えるのは…大変です」
小さく、彼女の羽が震える
「ある者は宗教自体を否定し、ある者はまるで汚物を見るような眼で見ます」
「…日本だと、宗教ってカルトっぽいからね」
「でも…愛を忘れて、機械みたいに毎日を過ごすのは正しいのでしょうか?」
まるで捨てられた子犬のような眼をしながら、俺に聞く
「…案外さ、そうでもないよ」
そう言いながら、俺は立ち上がる
「意外とシスターが知らないだけでさ…みんな小さな楽しみとか持ってたりするんじゃないかな?…シスターの考えも俺は好きだけどね」
そう言いながら彼女の手を取り言う
「君の世界も見てみたいけど、俺の世界も一緒に見てよ?…一緒に世界を見て回ろうよ」
「…キザですよ、それ」
そう言いながら、彼女は笑ってくれた
・・・
「深き奥にいます我等が神よ…」
朝、眼が覚めると彼女が祈りを捧げている
「…おはよー」
「おはようございます寝坊助さん」
そう言いながら、わざと少しむくれている
「もう!折角の朝のお祈り一緒に出来ないじゃないですか!」
「ごめんごめん…朝は苦手なんだよ…」
「ゆるしません!罰として…」
そう言いながら、彼女は顔を近づけ―――
「ほっぺにしかしてあげませんよ」
ほっぺに軽く口付けをした
「…これは…」
「私へのご褒美込みですから♪」
そう言うと、彼女はご飯を用意してくれた
「さ、朝ごはんは一緒に食べましょ!」
さて、今日はどんな世界がみられるかな?
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