幼い王女と黒勇者

―――朝、目が覚めると横には何時も通り寝顔があった

「すぅ…すぅ…」

僕が護りたい、護らなくちゃいけない、大切な人―――

「エヘヘ…ほーぷぅ…」

ファストサルド領領主、リリス=ファストサルドの綺麗な寝顔が、そこにはあった
気持ちよさそうに寝ている彼女の髪を、僕は優しく撫でる

―――くすぐったそうに反応する彼女

それをみて、当たり前になったこんな優しい1日の始まりに

いつも通り心躍らせたのだった

・・・

「おはよう、リリス」

そう言いながら、僕は紅茶の準備をする

「…おはよう、ホープ」

「今入れたばかりだから、熱いよ」

起きてきたリリスに紅茶を渡す

「…ホープ、やっぱり苦いよ」

「そうかなぁ…僕はちょうどいいんだけど」

朝は中々目が覚めないので、僕は苦めの紅茶をよく飲んでいた
リリスはそれがお気にめさないらしい

「これにミルクを足すとちょうど良いと思うんだけどね…」

「そうすると、朝からしt…」

続けようとした言葉を認識し、僕は言葉に詰まる
―――朝から僕は何を言おうとしてるんだ!?

「朝からどうしたのホープ?」

そう言いながらホルスタウロスのミルクを混ぜて紅茶を飲むリリス
―――多分、普通の牛乳も混ぜたオリジナルブレンドだとは思うけど…

「…いや、なんでもない」

それ以上に、そんな恥ずかしい事を考えてるのをばれてほしくなかった

・・・

「さて、今日もあと少しだしがんばらないと…」

そう言いながら、僕は街の付近を見回りしていた
最近は教団も簡単には攻めてこなくなった

だけど、そんな時だからこそ油断してはならない

かつて自分がいた場所だからこそわかる
あそこは―――教団は、間違いなくここを攻めてくる

人間がいなくなる原因が魔物にある
なら、魔物を殺し尽くす事が正義だと断言しているのが今の教団だ
教団は、何時如何なる時も魔物を狙っている

だから、油断はしてはいけない

油断したら…リリスが、みんながまた傷つく


そんな時、ふと視界に二人の男性が何かを話していた

―――二人とも、強い

なんとなく立っているだけだけど、隙がない
こんな立ち方ができるのは、訓練された人間だけだ



「そこの二人、何をしているんですか?」


警戒しながら、僕は二人に話しかける

「えっと…俺達はただの旅人です」

一瞬困ったような顔をして、片方の男性は言う
なんとなく活発そうなジパング人みたいな風貌だが、ジパング人っぽくない
そんな雰囲気の男性だ

「本当ですか?」

一瞬殺気を放ちながら、僕は彼に聞きなおす
口ごもるようにしながら後ずさり―――


「うわったあっ!!」

そう言いながら彼は転倒した

が、そんな事僕には重要ではなかった

「その十字の首飾り…」

彼が落としたそれは―――

「貴方達は教団の者ですね!!」

教団の、それも正規の勇者が持っているそれだった


「なぜここへ…まさかリリスを狙って…!?」

「あ、その、俺は勇者じゃ…ていうか元勇者であって今は違うんだけど…」

彼は誤解だと言わんばかりに否定をし始めた

「…信じられるとでも?」

「ですよね〜…」

勿論、そんな戯言僕は信じない

「はぁ……」

横にいるもう一人のジパング人―――服装はこちらの服だが、雰囲気で彼はジパング人とわかる―――が溜息を付き、彼を見やる
―――なんでそんな物持ってるんだよって言いたそうに

「これは魅了されない為の御守りみたいなものだよ。リリムのだって効かないんだぜ?」

「…ということはやはり貴方達は…!!」

「えっ、いや、ホントに元だから!!嘘じゃないから!!」

今の言葉で確信した

―――彼等はリリスを討伐しに来た勇者なのだ

「リリスを傷付けなんかさせませんよ!?」

剣に手をやりながら、僕は彼に宣言する

「てかさっきからリリスって誰の事だよ!?」

「しらばっくれないで下さい。このファストサルド領領主のリリム、黒勇者の事ですよ!!」

「へっ!?」

無知な振りをして、惑わそうとするその手口は、教団の汚い勇者のそれと同じだった

「では…覚悟!!」

迷わず、僕は剣を振り、彼を切り捨てようとする

「うおっと!」

上手く避けた彼を追撃しようとしたが、その避けている間には、攻撃をする隙を与えてはもらえなかった
―――やはり強い
彼の身のこなしは、一見ギリギリで避けたように見せて、その実相手の隙を伺っているのだ

「そう簡単には行きませんか…なら…」

出来る事なら、こんな方法を取りたくはない
が、救援を呼んでいるヒマがないだろう中、これだけの実力者と、未知数の相手を二人もしなければならないのだ


「本当は使いたくないのですが…」

剣を持っていた右手を前に出し、
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