それは、俺には嬉しい知らせだった
「今の…本当なのか?」
「本当らしいです!他のジパングの人からも聞きました!」
大将が俺にもたらしてくれた知らせ―――それは俺にとってどれだけ待ち望んでいたかわからない知らせだった
「ミハエル=フェン=フォエーンバッハさんは生きてます!」
・・・
弟―――ミハエルがジパング遠征に選ばれたのはある意味当然だった
あいつは、俺と違って剣の腕前も良いし、熱心な信者だった
熱心すぎて、他の人を―――親魔物領の考えを特に―――見下すところがあったり、逆に悪い神父を摘発したりと言う所があったが、根は真面目で良い奴だ
そんなあいつだからこそ、ジパングの危険な魔物―――ウシオニの討伐に駆り出されたのだろう
教団の一部の連中からしたら厄介者で、腕は立つ
上手くいっても布教にもなるし、失敗したら厄介者はいなくなる
忌々しいが、そんな理由であいつはジパングに駆り出された
〜〜〜〜〜〜
「なぁミハエル。考え直さないか?」
「兄さん…これはチャンスなんだよ?ジパングに主神の尊い教えを布教できるんだ」
ジパングにいく前日、俺はミハエルを説得していた
なぜか収まらない胸騒ぎと、行かせたらもう会えない気がしていたから
「兄さんは教えをあまり重視していないけど、あの教えさえあれば世界は平和になるんだ!これは神がお与えになった使命なんだよ!」
「だが…ウシオニは強いんだろ?」
「確かに強い…でも、命に代えても討ってみせるさ!私だってフォーエンバッハ家の騎士なんだ。兄さんや父さんみたいに戦果を上げれるさ!」
「しかし…「兄さんは心配しすぎなんだ。私だって騎士の端くれなんだ。だから―――」
私を、誇らしく送ってくれよ
〜〜〜〜〜〜
その言葉に屈した事を、今まで後悔していた
あいつは、たった一人の家族だったから
・・・
「カリムさん…」
「心配すんな大将、ちっと弟と会って直ぐ戻るからよ」
大将―――勇者ホープが俺を心配そうに見ながら言う
彼は俺の命の恩人であり、同時に俺がふがい無くて傷つけた少年だ
自分を犠牲にして、とにかく相手を助けるその姿勢は、部下だった頃から不安で仕方なかった
が、それを助けてくれたのは…当時敵だった黒勇者
彼女が、俺たちを―――彼を救ってくれた
おかげで、今では彼の笑っているところもきちんと見られる
「いえ、それよりお土産の心配が…」
「…それも心配すんなよ、こんにゃろ!」
そう言って軽く首を絞めてやる
こんな冗談すら言えなかった彼が、今では冗談を言って笑える
―――素晴らしい事だ
「い、痛いですよカリムさん!」
「うっせ!俺の事やエリスの事ちったぁ心配しやがれってんだ!」
「いたたたたた!ご、ごめんなさいって!」
―――ミハエル、お前もこんな風に救われてるのか?
彼が笑ってるのをみて、俺は思う
弟は主神に縛られ、それが全てと思っていた
今はどうなってるだろうか?
ただ快楽に溺れてしまっただけだろうか?
それとも昔と変わらずか?
不安も覚えていた
「…きっと大丈夫ですよ」
と、大将が言う
「カリムさんの弟さんですし、聞いてる限りとても充実してるらしいです」
「…あんがとよ、大将」
そう言うと、タイミングを合わせたみたいに声を掛けられる
「カリム!荷物まとめ終わったよ!」
と、触手で荷物を持つ我が妻エリス
「ようやく終わったか…お前なにもってこうとしてんだよ…」
「着替えとパンとかの材料。ミハエル君向こうでパン食べれて無いだろうし」
「向こうではゴハンが主食なんですよね?…リリスと食べたけど美味しかったなぁ〜」
「なら大将のへのお土産はゴハンだな?」
「いえ、オセンベエってお菓子で」
「ホープくんも変わったね」
オセンベエだかを熱心に頼む彼をみて、エリスは言う
「なんか…幸せでいいね!」
「…そうですね」
ホープがまた嬉しそうに笑う
「さて、んじゃま行って来るわ大将」
「いってらっしゃい!」
「土産、楽しみにしてろよ」
このまま話し込んでしまいそうだったので、無理やり話を切って、船乗り場に向かう
俺もエリスも、久しぶりに会う弟に思いを張り巡らせていた
・・・
船旅を終え、ジパングの地に足をつけた時感じた物―――
それは安堵感だった
「や、やっとついてくれたか…」
「カリム、大丈夫?」
船酔いに襲われ、エリスに介抱してもらってようやく俺は船から出る事が出来た
「大丈夫だが…帰りが今から怖い…」
「あ、ハハハ…あ、荷物は私が持つよ」
引きつりながら笑ってくれるエリス
触手を器用に使い、荷物を持ってくれている
「すまねぇ…」
「その代わり…我慢させた分今夜は、ね?」
船旅は
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