EX〜呪われし勇者の最後の三日間(上)〜

―――それは、人間として許されない事だろう

他者の血を飲み、それを糧にしなければならない
人間ではなく、それはヴァンパイアでしかないだろう

が、それを行わなければ生きていけない我輩は、生物学的には人間なのだ

「―――で、なにか質問があるかしら?」

と、突然声が我輩の意識に入ってきた

「…聞いてたかしら、ブラドさん」

「あぁ、すまない黒勇者殿。考え事をしていてな…」

と、目の前の事に意識を戻す
―――ここは親魔物領

我輩達が、虐殺を行おうとした現場だ

・・・

少し、昔のことを思い出す

―――我輩はある商家の貴族の長男だった
勉学をする環境もあり、全てが理想的だっただろう

そして、我輩はそれに答えて行くように、様々な取引をしていった
我輩は、それのおかげでかなり良い暮らしも出来ただろう

が、それでも―――品質が良い物は、魔物が作った物の方だった
どんなに良い鍛冶師を雇っても―――
どんなに素晴らしい織り機を入れても―――

魔物達の作る品物には、及ばない部分があった
我輩は、純粋に悔しくもあり、同時に敬意を覚えた

人間の技術は、魔物のそれに及ばない

より良い品を仕入れ、それを市場に流す事こそ、商いをする物の必要な事だ
つまり人間がより良い物を手にするには…
魔物の作ったものをきちんと自分たちの物にするために―――その技術を盗む必要がある

その考えに至ったのだった

最も―――その考えが、私の地位や、今までの努力
そして家族との縁を無くす事になるとは、予想だにしなかった

〜〜〜〜〜〜

「ブラド…貴様何を言ってるのかわかってるのか!?」

「えぇ父上。我輩たち人間が魔物に勝つには…もはや人間優位のプライドを捨てなくてはなりません!」

私は父に進言した
魔物の作った品を集め、人間の職人たちにそれを解析してもらう事を

そうすれば、人間の技術力向上に繋がり、親魔物領に顧客や利益を奪われるだけの事は無くなる
反魔物領だけで貿易するだけという小規模な市場を拡大できる

そして―――わが家の繁栄にも繋がるはずなのだ

「なんておぞましいのだ貴様は!魔物の方が優れているなんて恐ろしい考えを良く出来るものだな!!」

「その考えが我々人間の可能性を狭め、我々が不利になるとなぜお気付きになれないのです父上!」

私と父は真っ向から対立した
―――父は熱心な教団の信者で、魔物排斥主義だったので、仕方ないと言えば仕方ない

「貴様には失望したぞ!出て行け!」

「父上…」

出て行った私に待っていたのは―――
白勇者への転落だった

〜〜〜〜〜〜

父は、私が親魔物領と内通してると勘違いしていたらしい
おかげで私は、いわれの無い罪で裁判を受け、死亡扱いにされた

まぁ、死亡扱いでなく死んだ方がマシだったのは言うまでも無い

おかげで―――
他人の血を飲まなくては生きていけない体になってしまったのだから

・・・

「…これからどうするんだNo.96」

黒勇者に解放された後、私はNo.12と呼ばれている女性に呼び止められる
彼女もまた、我輩と同様人体実験を受け、後遺症を患っている
―――最も、彼女自身に自覚はないが

「No.12か…我輩は無事釈放されたようなものだ」

そう、黒勇者からは我輩は自由に街を探索していいと言われたのである
我輩の能力などを考えたら、まず野放しにしないのが妥当だと思うのだが、彼女はそうは思わなかったらしい

曰く『貴方は親魔物領を見て回るべきだ』との事だ

実際興味があったし、今後の為には必要だと思うので、それには大いに賛成だ
―――最も、今後など無いに等しいが

「今はNo.11の尋問中であるな」

「…あれを尋問と言うか疑問が残る」

No.12が言うのもわかる
尋問中に紅茶を飲みながらケーキを食べ、更には自分の愛読書などの話をする事など、果たしてありえるのだろうか?

「戦略的情報を引き出そうとしない事から、我々は利用価値はないと判断されたと考えるのが妥当」

「…そうとは限らんがな」

No.12には無意味に感じただろうが、我輩からしたら彼女の気持ちが良くわかる

間違いなく、我輩たちと共存を考えてるのだろう

でなければ、我輩にこれ―――自身の血液の入ったビンを渡したりはしないだろう

「我輩も、難儀な体になったものだな」

彼女の解呪も空しく、我輩の能力は消える事が無かった
いや、恐らく―――

白勇者の能力を消し去る事は不可能だろう

なぜなら我輩たちの能力は、全て体に無理やり植えつけられ、無理に剥がしたりしたらどうなるかわからないのだ
一人、解呪された白勇者が居たらしいが、それでも一部の制約を解呪したに過ぎないらしい事から、その見解に間違いは無いだろ

「しかし、No.11
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