私達が巡り会えたたった一つの奇跡


「クソッ…」

おぼつかない足をなんとか動かし前に進む

魔物との戦いを終え、体中は傷だらけだ

それでも俺は必死に足を前にだす

ふと、目の前が二重に歪んだと思うと、足に力が入らず地面に倒れこむ

クソッ、まだ…俺は…

それでもなお、前に進もうとする
霞む視界の中に何かが写る

かろうじて人の形だと理解できたがそこで俺の意識は途切れた

・・・

…うるさい

ガヤガヤと騒ぐ声が聞こえる

「うっ…此処は?」

目が覚めて、真っ先に入ったのは子供達の声

とりあえず自分の周囲を見渡すと、古いベットに寝かされており、自分の体には手当が施されている

「あ!お兄ちゃん起きたみたいだよ!!」


子供の一人が甲高い声をあげ、その声に反応した子供達が寄ってくる

「誰かエリザママ呼んで来て!!」

「エリザママ、今いない、お姉ちゃん、呼ぶ」

何やら俺の周りで話を進めている

俺のベットを囲む8、9人くらいの子供達
年齢はばらばらそうでパッと見て顔も特に似ていないし、衣服も少し古びてる気がする

「あ…お、起きられましたか」

そんなことを考えてると一人の女性が部屋に入ってくると俺は一瞬言葉を失った

歳は俺と同じくらいだろうか

フチなし丸眼鏡をかけていて、目は結構キツいつり目で、こちらをにらんでいるようにも見える
しかし、その姿は紛れもなく美女である

少しの間、彼女の姿に見惚れてしまったが、やがて我に返ると、心を落ち着かせ彼女に問いかける

「貴方は?」

「私は…イザヴェラ。イザヴェラ=エルキナと申します。一応この孤児院を任されています…」

少しビクビクしながら、彼女は自己紹介をしてくれる

ん?エルキナ?どこかで聞いた気が…
聞き覚えのある名前だったが、今は頭の片隅に追いやり、再度質問をする

「貴方が俺を?」

「はい、道端で倒れているのを偶然見つけて」

ということは、意識が途絶える直前に見た人影はおそらく彼女だったのだろう

「そうですか…俺はエスっていいます。助けていただき、本当にありがとうございます」

そう言うと俺はベットから立ち上がり彼女に近づこうとすると…

ビクッと、体を硬直させ、俺から離れるかのように彼女は2、3歩後退る
なにがまずいのかも分からず困惑していると、俺の傍に立っていた一人の少女が俺の裾をクイクイとひっぱる

「ええっとねぇ〜、ヴェラ姉はぁ〜、男のひとが苦手なんですぅ〜」

ずいぶんと独特な話し方で俺に指摘してくれた

一方の彼女は、自分の症状を知られ恥ずかしそうにしている

「スミマセン、そうとは知らず」

「い、いえ…いいんです…」

会話が途切れ、少し気まずい空気だったが一人の少年がいきなり俺に言ってきた

「なぁなぁ兄ちゃんさぁ兵士なんだろ!俺に剣とか教えてくれよ」

「あ!ズルいぞ僕も僕も!!」

なにやら勝手に騒ぎ出すが、俺は頬をかきながら伝える

「悪いけど、俺は教団に戻らないといけないから…」

そういって歩き出すが、一歩踏み出すだけでよろけ、膝をついてしまう

「む、無理ですよ!まだ体が治ってないんですから…」

そう言いながら、おっかなびっくりで俺の体をベットに戻してくれた

「今は体を労わってあげてください、ね?」

その悲痛そうな表情の彼女に、俺は頷いた

・・・

そうして一週間くらい経ち、俺の怪我も大分よくなってきていた
子供たちを寝かせ、リビングに戻ると…

「も、もうみんな寝ましたか?」

相変わらずぎこちなく彼女は俺に話しかけてくる

「えぇ…みんなぐっすりと」

「お、お疲れ様です」

言いながらお茶を出してくれ、俺は「ありがとう」といいながら椅子に座り、お茶をいただいた

「でも…子供好きなんですね。もうみんなと仲良くなって」

言いながらも彼女も椅子に腰かける。無論、俺から離れた位置で

「まぁ、いろいろあって慣れてますから」

そんな他愛ない会話を話している時だった

「そういえば、エスさんは何故教団に入ったんですか?」

「えっ?」

いきなりの質問に少し戸惑っていると、彼女は申し訳なさそうに

「す、すみません、いきなり変なこと言って…」

「いえ、別にいいですよ。最初は魔物が許せないと思っていたからです」

「魔物が許せない?」

「えぇ。別に珍しい話でもないですけど俺には親がいなかったんですよ。孤児なんです」

親がいないというのは確かに珍しい話ではない、今の世で親がいない子供は多いだろう

「子供の扱いに慣れてるのも、そういう訳なんです」

苦笑しながら、お茶を飲む

「確信はないんですけれど、多分俺の親も魔物がらみだったんだと思います」

「だから、魔物を恨んで…」

彼女からきた言葉に、俺は少し付けたしをしながら答える

「…
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