エピソードファイナル〜苦しみの頂点〜

「なぜ貴様らは盗賊退治くらいしかまともにできんのだ!!」

怒りながら、僕や第七騎士団に当り散らす、大司教の姿がそこにあった

水晶越しだが、その豪華な食事はよく見える


―――その食事で、何人分の食事が賄える位の金額だろうか


そう思いながら、大司教の言葉を聞いている

「貴様らがもっと働かんから!人々が苦しむのだろうが!!恥を知れ!!」

高いだろうワインの入ったグラスを床に叩きつけながら言うその姿に、説得力は無い

が、それでも―――

「申し訳ありません」

僕には、これしか言えないのだ

・・・


新しい任務は、近くの盗賊の討伐だった

討伐自体は単純だ
ただ、盗賊を捕まえてしまえばいいのだから

だが―――

「住民が、魔物に…」

魔物がいるなら、話は変わってしまう

「お願いです!確かに私達は魔物ですが、いn「黙れ」

僕は、住民を中央に皆を集めさせた

「愚かな魔物たちよ」

僕は、続ける

「罪の塊たちよ、今、断罪の時だ」

心を出来るだけ虚ろにしながら、空にしながら―――

「ふざけるなぁ!」

妻を守ろうとする、勇敢な人を傷つけ、僕は言う

「魔物に魂を売った害悪、貴方から送ってあげましょう」

「やめてよ!その人を放して!!」

泣き叫ぶワーウルフの女性を取り押さえるように指示し、僕は―――

「せめて、安らかなる死を」

罪に塗れた剣を振り下ろす!

―――ガキィン!

不意に、剣が途中で止まる

「また、貴方は…」

「現れましたね、黒勇者!!」

あぁ、また―――

また、希望が僕を止めてくれる

・・・

また、いつもの繰り返しだった

「せめて、安らかなる死を」


そう言いながら、無理やり人を殺めようとする彼を、私はまた止めた


その度に、安堵したあの顔を見せながらも、直ぐに敵意の顔を覗かせる

それを見る度、私は―――

「なんで、こんな事を?」

「魔物は悪、それが教団の教えですから」

私は―――

「それより、話をするだけなら邪魔をしないでください。執行中なんですから」

「それを、本心から言ってくれてるなら…」

私は、悲しくなる

「私の本心は、貴方達魔物を殲滅することだけです」

「…そう」

彼がなぜ本心を隠すのか、解らなくはない
無いが、解らない

なぜ、そこまで―――わざと任務を失敗するのだろう

「…ごめんなさい」

そして、自分にも腹が立つ

「!?逃がすカァ!!」

転移魔法で、他の住民達を逃がしながら、結局彼の事を見捨てる形で逃げる自分が、嫌いになりそうだった

・・・

「また逃がしただと!?」

任務の経過報告をしていると、大司教は完全に怒り狂いながら僕に言う

「盗賊如きしか捕まえられんなんぞ、使えないにもほどがあるわ!!貴様らを作るのに、どれだけの資金を使っていると思っているのだ!!」

「…申し訳ありません」

「ならなぜ戦果をあげん!!そんなだから母親にも売られるのだぞ!!」

その言葉に、僕は心のそこから切り刻まれる感覚を覚える

「もっと尽くせ!もっと殺せ!もっと、もっともっともっと!兵器の自覚を持たぬか!!」

「…申し訳、ありm「謝る暇があるなら魔物を殺せ!もっと己を捨てて働け!!」

一方的に切られる通信

安堵と同時に、吐き気を覚えていた

―――もっと僕が頑張らないと

そう、僕がこの程度で根を上げてたら、騎士団の皆にも、黒勇者にも迷惑が掛かる

もっと、心を強くしないと

もっと、みんなの為に―――

「終わったかい?大将」

「…フォーエンバッハさん」

と、僕が報告を終わったのを見越してか、フォーエンバッハさんが声を掛けに来てくれた

「…また、小言ですかい?」

「任務失敗と同じですから」

そういうと、心底腹を立てた顔で、彼は言う

「ったく…元々の任務は成功してんのに!」

「仕方ない、ですよ…」

彼の怒りは最もだ

「私は、魔物を滅する為にいるんですから…」

だが、それが現実なんだ

「魔物を逃したら、存在意義がなくなりますから」

「…なんで、アンタがそんな重荷を背負わなきゃいけないんだよ!?」

彼は声を荒げて言う

「大将一人で、なんで背負うんだよ!俺たちって、少しは役に立てるだろ!?」

ありがたい、勇気付けられる言葉だった
けど―――

「…すよ」

「え?」

今の僕には、辛かった

「出来るわけ無いですよ!!これ以上、なんで貴方達を苦しめなきゃいけないんですか!?」

僕は、声を荒げて、続けて言う

「僕が何もかもしなきゃいけないんです!!これ以上犠牲を出さない為にも!穢れるのは僕だけで良いんです!!僕以外、これ以上傷ついちゃいけないんだ!!」

ハァハァ…と、息を整えながら、自分の言った事を後悔
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