「せめて…お前と、キューは幸せになってほしい、な…」
俺はこの言葉と共に、下へ落ちていく
最後の最後で、良い事をした「つもり」で居たかったから
俺によって傷つけられたあのガキも、絶望に満ちた顔をしている
―――よかったな、これ以上は不幸にならねーぞ
俺の死なんかを悼もうとするだろう彼女をみていて、俺は自分自身の、過去を思い出し始めた
・・・
俺がいた村は、小さな魚村だったと思う
思うっていうのは、ガキの頃には大きく感じたからだろう
10歳のガキには、丁度良い大きさだったとは思う
「アクアス!!帰ったぞ!!」
「お帰り!とおちゃん!」
俺がまだ7つの時には、まだ親父がいた
親父は村一番の漁師で、誰にも負けないくらいでかい魚をとってた
―――もっとも、この2ヵ月後には魔物に連れ去られてしまい、どこにいるのかもわからないが
「アクアス、しっかり勉強したか?」
ふと、場面が切り替わり、兄貴の姿が出てきた
親父に似ず、華奢な見た目だが、漁をする時の兄貴は、親父以上に男前にみえたっけ…
「にいちゃん…これ訳わかんねーよ」
「これ、前に教えた計算の応用だぞ?…まぁいい。教えてやるよ」
親父が居なくなってから、母さんも働き始めて、兄貴が俺の面倒を見てくれていた
「いいか、アクアス」
「なんだよ兄ちゃん?」
兄貴はもしかしたら、この時には気付いていたのかもしれない
―――自分が、魔物に連れ去られるのを
「もし兄ちゃんが居なくなっても、母さんを困らせるなよ?」
「…いなくなんなよ」
「簡単にはなる積もりはないが、な」
そういって頭を撫でてくれた兄貴も、魔物に…
「あ、後一つだけ約束してくれ。―――」
兄貴、聞き取れないよ?
兄貴…
・・・
ふと目が覚めると、俺は池に浮いてるようにしていた
―――WaterCreat(ウォータークリエイト)
俺が教団に連れてかれたとき、無理矢理体に植え付けられた、魔術式
周りの水分を自在に操作し、形作ることができる、一見便利すぎるくらい便利な魔術だ
が、その代償から禁術指定をくらった曰く付きの魔術でもある
水は、水温が上がると蒸気になる
蒸気を形作るには、また別の魔術が必要になるらしい
が、水温が上がれば、自然と蒸気も増える
―――なら、常に冷水の状態を保てたら?
代償、それは術者の体温を使い続ける度に下げ続けることだった
実験の中、自分の体温を維持できず死んでいった仲間達を見ていった
その度、教団の関係者達は口をそろえて俺たちにこういったんだ
『全ては魔物が存在することから始まる悲劇だ。お前達がこの術を使えないと、お前らの明日はそこに転がっているぞ』
『お前らがその魔術を使えないと、もっと沢山の人間が不幸になるんだぞ』
『全ては、神の為に』
水に浮かびながら、今ならはっきりと思える
―――なら、その神様は俺たちをなんで見捨てんだよ?
・・・
「アクアス」
また、昔を思い出す
「母さん、寝てろよ。…俺が準備すっからさ」
働き詰めで倒れた母親の代わりに、俺は漁の準備をする
日に日にやつれていく母親を見て、俺は魔物への憎しみをたぎらせていた
―――あいつらさえ居なければ、母さんは苦しまないのに…
そう感じてる中、外が騒がしくなっていった
―――あぁ、あの日だったか
気になり、外に出てみたが…
それがいけない事だったと、今でもはっきりと感じる
―――海の魔物を、村人を虐殺していく教団騎士たち
そう、この村が、『浄化』対象になっていたのをしった瞬間だった
確かに、この街は主神ではなく、海の神―――ポセイドンではなく、海龍神信仰だったか―――を信仰していたが、魔物と共存などはしていたわけではなかった
にも関わらず、正義の使者の教団騎士が、なんでこんな事をしているか、当時はわからなかった
「子供は?」
「30名は生きています」
「全員連れて行け。『孤児院』にな」
―――後でわかったが、この襲撃事件は、魔物による物になっていた
―――実際、魔物の被害を受けて、壊滅寸前だったのは事実だが
―――それでも、俺たちは…
ただの、悲劇の、宣伝物だった
・・・
水から温度を貰い、少しは体が温まったようなので、俺は這い出るようにして、その池から出る
体中ずぶぬれで、体もふらふらだが、動けないほどではないので、なんとか火をたける物がないか探してみる
―――ガサッ
近くで聞こえたのは、誰かの足音
俺は警戒して、水から剣を作り―――
「おにいちゃん!!」
「げふらっ!」
出てきた、小さなサキュバスに飛びつかれ、そのまま倒れこんだ
・・・
「…お前、ヴァカだろ?」
目の前のサキュバスに、俺
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