ファーストミッション〜遭遇〜

「…んじゃ、俺も新しい任務あるから」

「お気をつけて」

祝福を受けた僕らは、そのまま任務に着く事になった

No.17は、これから沿岸部の魔物たちを退治するらしい

「あ、一個言い忘れてた」

と、彼は僕の方に向きかえる

「アクアス=リヴァイエール。俺の名前だ」

「え?」

「もう、この名前を覚えててくれる奴、お前しかいねーんだ…」

そういうと、彼は悲しそうに俯く

―――彼の居た所は、元々漁師町だったらしい
だが、その街に海の魔物たちに男達は連れて行かれたらしい

その中には、彼の父親も含まれている

男の働き手が居なくなり、女性もまたネレイスに変わったりした事により、彼の住んでいた所は教団の殲滅対象になったそうだ

そして、生き残りの者の殆どが教団で―――

「あいつらは、きっと俺のこと覚えてないし、同期って言えんの、お前だけじゃん?」

「そう、ですが…」

「だから、お前が覚えててくれ。勇者でもない、ただの復讐の為に教団を利用した、一人の人間として」

その顔には、決意が刻まれていた

彼は魔物も、教団も憎んでいるのだろう

が、それでも…

アクアスとしての人生の為に、勇者をやってやろうという、決意が確かに見えたのだ

「…解りました。お気をつけて、アクアス」

「おう!じゃあな!」

そういうと、彼はそのまま自分の行くべき所に進んでいった



アクアスを見送りながら、僕は思う
僕は、彼のように名前を覚えていない

―――いや、名前なんて使うことがもうないのだ

僕らみたいに『作られた』勇者に、名前なんて必要ないんだから…

・・・

『人造勇者計画』

僕らのような、孤児の子供達を使い、人造的に勇者を作り出す計画らしい

本来、勇者というのは主神からの神託があり、初めて勇者になれる
が、それだと戦力がいつ整うか解らない

それだけならまだしも、魔物の勢力はどんどん力を増している

つい最近には、あのレスカティエも攻め落とされたという話だ


そこで教団の一部の者達は考え付いてしまった

―――人工的に、強化した人間を戦場に投入してしまおうと

当初は犯罪者を実験に使ったりするだけでよかったが、それだけではやはり足りなくなってしまった
さらには、急な改造により精神に異常をきたす者も現れ始めたのだ

そこで考えられたのは、僕らのような子供だ

教団による浄化で残った孤児や、僕のように売られた子供達をより長期的に改造すれば負担は軽いだろうと、そういった目論見だった

結果は今この状況がさしている

教団に売られて10年
ついさっき、僕は実験が成功したことにより、任務に着く事になったのだ

成功、しているのだろう

そんな僕らには、[ナンバー]の他に呼び名がある

教団から繰り出される、精鋭の勇者達
その純白の格好から、断罪の容赦の無さから畏怖の念をこめて、こう呼ばれていた

『白勇者』と…

・・・

「No.93。これより任務だ」

僕の前には、計画を進める大司教がいる

僕ら白勇者は、この大司教から任務などを言い渡される


教皇も、恐らく彼の行いには気付いていない


それ位、彼の計画は用意周到で、彼の権限は強い

「ここから少し離れたところに、魔物と暮らす背信者たちがいる。浄化して来い」

「かしこまりました」

「援軍の手配が遅れていてすまないが、貴様ならやれるだろう」

そういうと大司教は、下がれ、と、手でサインし、奥に行ってしまった

僕は、任務の準備の為、自室に戻ることにした


自室には、殆ど私物は無いが、懐かしさはあった
教団に来てから6年、この部屋で過ごしたことになる

最初の4年は、ただ広い部屋に詰め込まれて過ごしていた

あの時居た他のメンバーは、元気だろうか
そんな感傷に浸りながら、改めて思う

―――今戦える僕らが勝てば、後の皆は自由になるはずなんだ
―――だから、勝たないと

そう、心に誓い、僕は任務の地へ向かう

・・・

「お疲れ様です」

任務の為に向かった先は、もはや戦場と化していた

いや、戦場ですらなく…
ただの虐殺場、か

と、目の前で魔物が兵に串刺しにされる様を見て、僕は感じた


―――まるで、僕らのほうが魔物だな


そう、感じながら、僕は前線に出る準備をする

「現在の浄化の進行率は?」

「現在、4割が完了してます」

浄化―――

清めるという名の、大量虐殺

魔物と暮らす事により、人間は穢れるからという、悲しい考えの行い

「解りました。…私も向かいます」

ここはそこそこ大きい村だからだろう

まだ4割しか終わっていない
…まぁこの村の中にリザードマンや、ケンタウロスみたいな戦闘が得意な魔物が居れば、それも当然か

そう思いながら、僕は前線の援護へ
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