「…だめだ、こんな文章じゃ」
書いていた文章を消して俺は呟く
俺は新鋭気鋭の作家、と言えば聞こえは良いがただ運よく本が売れてダラダラ物書きをしているだけの作家気取りだ
現在俺は新作を書く為に頭を悩ませているが…
「なんか、違うんだよなぁ」
俺が書きたい表現が上手く書けない
そんな状態が続いている
このままじゃあ締切に間に合わないし、原稿料が入らない
原稿料が入らないと当然生活もできなくなり―――
「あぁ、やめやめ」
負のスパイラルに陥っている俺は、外に出て気分転換することにした
・・・
「…」
早速、外に出て失敗したと思った
―――目の前に、剣を持った女性がいる
身体の半分はなんかコスプレみたいな剣と一体化して、残りは何処にでもいる女子高生の制服姿
そんな怪しい女性と俺は目と目が合う
女性はじぃ、と俺を見る
そして、近付いてきて―――斬りかかって来ようと―――
「するのは予測できてるんだけどなぁ…」
そう言いながら、なんとか避けて転ぶ俺
無様である、実に無様である
「斬りたい…」
女性がそう言いながら、ゆらぁ、と擬音が付きそうな動きをしながら近付いてくる
「ま、まて!俺はまだ死にたくないんだ!」
「斬りたい…でも…殺したくない…」
ブツブツとそう言いながらゆっくり近付いてくる彼女に、俺は提案した
「お、俺は作家なんだ!君の事をモデルにして作品を書き上げたい!その後なら切り殺してくれて構わないから!」
その言葉に女性は動きをとめる
「…はぁ?」
ナニイッテンダコイツ?と言う表情
中々様になっていて可愛らしい
「いや、アンタの事斬らない理由にならないでしょそれ」
「そこをなんとか!この作品売れたらその印税とか君にあげるから!」
これはチャンスだ、そう自分に言い聞かせた
元々文章に行き詰っていたのも大体は感情表現とかだ
新しい作品はホラーのつもりだし、彼女の心情とかを聞きながら文章化したら良い作品が生まれるかもしれない
「いや…だってその作品が世に発表されたら私の存在が露呈しちゃうし」
「そこをなんとか!」
土下座しながらお願いする、もう思いっきりお願いする
「…まぁ、そこまで、言うなら…」
そう言った彼女は、さっきまでの斬りたいと言っていた彼女とは違う人のようだった
・・・
「剣が手から離れない?」
「うん…気が付いたらこうなってた」
彼女の右腕を見る
剣と一体化しているとしか思えない位に肥大化したその右腕に、今は剣が収納されている
「その剣はどこにあったんだい?」
「家の蔵…」
「ご家族には…」
「…」
「あぁ…もう斬っちゃったのね…」
彼女と話を進めていく内に幾つかの情報を得た
まず、彼女は近くの家に住んでいる女子高生で、そこそこ裕福な家庭と思われる
家に蔵があるなんてのはそうそうないし、代々続く蔵だとしても土地代とか税金もバカにならないだろう
さらには彼女が持った剣は彼女の父親が骨董品収集の趣味で手に入れたものらしいという話を聞いた
骨董品収集なんてする余裕があるのは裕福だと思う事にしよう
次に彼女と彼女の家族との関係だが…残念ながらあまり良好とは言えなかったようだ
と、いうのも、かすかに青あざや傷跡が見えたりしている事から虐待されていたのではないかと思わせるような物がいくつかあるし、何
より家族の話をする際の彼女の反応だ
一瞬ビクつく様な反応と明らかに顔が恐怖におびえていた
人を初めて斬ってしまったことからの罪悪感もあるだろうが、明らかに家族と確執があったように見える
最後に、彼女が斬りたいという衝動に飲まれていた事はぼんやりとしか覚えていないらしい
「想いっきり虚ろな眼で『斬りたい』って言ってきたんだけど…」
「あんまり覚えてない…」
そういいながら彼女は言う
「作家さんが土下座し始めた辺りくらいから衝動が収まってきて、今は特にその衝動はないよ」
無理に笑おうとしているのか、寂しそうな笑顔を浮かべる
なぜか、その顔をみて俺は…頭をなでた
「無理はするなよ?なに堪えてるかわかんないけどさ」
「…うん」
返事をし、彼女は泣き始めた
声を殺すような泣き方、それはもう癖になっているんだろう
こんな時、どうすれば良いのか俺にはわからないけれど、とりあえず頭をなでている事にした
・・・
「…もう大丈夫」
「そうか」
泣き始めて一時間位して、彼女は言う
そして俺は言わなければならない事を言う
「それじゃあ、俺は今から仕事の為に君の衝動とかについて聞く」
彼女もそれは分かっていたのか、俺をみて、頷く
「斬りたいって衝動は、どんな感じだった?」
「…兎に角、人に剣を突き立てたり、引き裂いたり、その感触を味わいたいとい
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