歪な契約

廃坑の入り口には、血だまりが出来ていた。
「・・・・・・。」
二人分なのか、かなり量が多い。
「・・・・・・。」
だが、そんな事よりも気になるのは、屍が命令を無視した事だ。
 命令に従順な奴らが命令を無視することなどあり得ない。もし、命令を無視する理由があるとすれば、その命令が理不尽すぎるものであったとか、屍の主に理由がある場合だ。
 しかし、今回は俺の命令は理不尽なものとは言えない内容だ。
 『綺麗に跡形もなく人間を喰らう様に』という命令を下したはずだったのだが、俺の命令の仕方が間違っていたか?
「いや、そうでないとしても・・・・・・。」
 考えれる事はいろいろあった。
 例えば、もうその時点でキヅナを奪われていた、とか。
 その可能性が一番高い、と俺は結論を出し、奥へと向かう。


「美弥は言った事を守ってくれるかな・・・・・・。」
 そんな思いが泡の様に浮かんで消えた。


            §

「やっとか、受動式。」
「・・・・・・。」
「なんだ?ビビってんのか?」
「なんか言えよ、受動式・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 廃坑の最奥、煙っぽい小さな空間で俺は賊の長とみられる筋骨隆々とした男に話しかけられていた。
「まぁな、この屍を見たらビビっても当然だよなぁ?受動式?」
 ケタケタと笑う蛋白質。その姿に呆れて溜息をついた。
「俺は受動式高等術師壱位、松下哲也だ。受動式という名前ではない。」
「長い肩書だなあ、オマエ。」
 男の眉間に皺が寄った。意味を理解したらしい。
「オレは、ナマリクニ波導式高等術師参位の佐張京一だ。命乞いでもしたら助けてやろうと思ったんだがなぁ?哲也さんよぉ。」
「肩書に蛮族の族長が抜けてるぞ?」
「はははっ!!俺が本当に蛮族の族長だと思うのかお前は!?そしたらとんだバカだ!!この賊の長は俺がもう殺してんだよ!!」

「・・・・・・(汗)」
皮肉のつもりで言ったのに何言ってるんだ、コイツ。肩書を聞いたらそんなの誰でもわかるだろ。莫迦なのか、コイツ。
 小学生のよく言う『莫迦って言ったやつが莫迦』っていうのは本当だったらしい。

「まぁいいや、お前はお前自身が作った屍に食われて死ぬんだ。そんな事関係ないよな?」
 
「・・・・・・はたしてそうかな?」
 ハッタリを張った、というわけではない。こちらには秘策がある。
「なんだと?この状況でハッタリを張るとはいい度胸だ。」
「ハッタリじゃねえよ。もしそれがハッタリだと思うのなら、屍に俺を食わせてみろ。」
 俺の口調は自信に充ち溢れていた。なぜなら、この屍からはあの佐張という男の気配しかしない。そこから、このダミーのキヅナの意味すら分かっていないという事実が推測出来るからだ。

「てめぇ・・・・・・。行け!!屍!!」
 男が挑発に乗る。莫迦だ。笑えないくらいに。

「「「「「「「グギギギギッギィィィィィィィッッ」」」」」」」

 屍達がそんな声をあげて悶え、朽ちていった。

「莫迦だな、オマエ。ダミーのキヅナは屍の所有権には関係しないが、大事な役割を担っていたのに、それに気がつかないとは・・・・・・とんだ三流術師だな。」

「何ィ!!・・・・・・そうか『行動の支柱』か!!」

「そうだ。あの屍たちは攻撃に特化させる為に多量の魔力を必要とする。だから、魔力補給口としてのキヅナが二人分作ってあった。しかしそれに気づかずに俺とあの屍たちのキヅナを全て断ち切ったのはオマエ。ちゃんとキヅナがどういう役割なのかを分析するべきだったなぁ?」

ハハハハッッ、と嘲笑う。これで2対1だ。どちらが相手でどちらが自分かは分からないが。

「クソッッ!!ならば・・・・・・、出てこい!!美弥ッッッ!!其処に居るんだろッッ!!」
 男が叫び、美弥の名前を呼ぶと俺の後ろにある岩の陰から聞き覚えのある声が聞こえた。

「はい・・・・・・。主様。」

 その声は紛れもなくあの『美弥』のものであったが、姿は・・・・・・艶かしく、妖しい、女の忍、『クノイチ』の姿であった。



        §
「・・・・・・美弥?」
「ハハハハッ。この美弥の『変化ノ術』はオマエには見破れなかっただろう。」
 ゲタゲタと男が下品に笑う。
「主様、私はどうすれば?」美弥が男に問う。
「だから、コイツを殺せよ。」
 男の回答。コイツの暗部が俺にはよく見える。
「え・・・・・・?」
「だーかーらー、早くこいつを殺せばいいんだよ。」
 男が呆れたように俺を指差す。俺はその人差し指の延長線上から逃げる。指を差すことや、会話をする事、触れる事は、古の呪術である。
 だから、その延長線上から逃げる事は人差し指に載せられた呪術から逃げる事に相当する。

「主様は何を言っているのです?自分自身の名を伝え合い、決闘
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