木漏れ日を浴びて立つハダリーの姿を見て、レットはその一瞬、呼吸が止まるかと思った。
遺跡から町へ戻る途中、人里を通るにあたって、レットが気にしたのはハダリーが人目につくことだった。古代遺跡群にほど近いこの里では冒険者の存在は珍しいものではないが、それでも彼女が目立つだろうことは容易に想像できる。なにしろ彼女の顔立ちは整っている。十人とすれ違えば十人が振り返る美貌なのだ。彼女の冒険者然としていない、場慣れしていない立ち振る舞いもその空気に拍車をかけていた。
本人がそうなることを望んでいるわけでもない以上、目立っていいことはあまりない。とりあえず、背中に流れる白い髪だけでも隠せば少しはマシになるかとレットは考えた。彼女のあの服を生み出した能力は、予め記録したいくつかの服装を再現するもので、あまり好きな格好になれるわけではないらしい(ちなみにあれは“旅装”モードだそうだ)。そういうわけで、レットはハダリーを村の外の森に残し、髪を覆う布を買ってきたのだった。
レットが村へ行っている間、彼女は素直に元いた場所で待っていた。森の中でも地盤が岩がちになっているからだろう、その場所は僅かに木々が開け、下草の繁った地面まで日光が届いている。どこか腰掛けていればいいものを、彼女はずっと立っていたらしい。視線は自分の肩に向けられている。なにをしているのかと見れば、小鳥が二匹、視線の先で互いに囀っていた。
なるほど、人形である彼女にはきっと、人間や他の動物のような気配がないのだ。だからこの森に棲む鳥たちも警戒しない。目の前の光景を見て、レットの中の冷静な部分はそう結論づけた。頭の残りの部分は完全に思考を止めている。肩に小鳥を遊ばせる彼女は、絹のような髪に陽光を浴びて、芸術的なまでに綺麗に見えた。
戻ってきたレットの気配を察知して、ハダリーが顔を上げる。鳥たちが羽ばたいて逃げていく。
「お帰りなさいませ、レット様」
◯
「それじゃあ、レットたちのパーティ結成に、」
「あとアタシたちの収穫にぃ」
「微妙だったレットたちの収穫と大漁だったオレらの収穫に」
「おい余計なこと言うなよ」
「乾杯!」
「乾ぱ
#12316;い!」
呑気で陽気な掛け声に合わせて、四人ぶんのジョッキが掲げられた。テーブルについている人間は六人。足りない分は乾杯のノリに付き合う気もなさそうな一人と、それからタイミングを逃したハダリーだ。各人一斉にジョッキを傾け始める。
後日。レットたちと入れ違いに遺跡に入っていった彼らは、本人たちの言う通りかなり満足できるだけの報酬を得て帰還したらしい。あの後しばらくは落ち着いて話すこともなかったが(互いに別々に活動しているのだから仕方がない)、情報の礼ということで、今日はこうして酒を奢ってくれていた。もちろん仲間であるハダリーも一緒だ。彼女は活動に食事を必要としないが、飲もうと思えば酒を飲むこともできる。主人のレットが許せば彼女の方に拒絶する理由はない。
新しくレットと組むことになった──もっとも彼女の認識としてはあくまで「仕えて」いるのだが──ハダリーに、彼らは自分たちのことを紹介した。最年長で一番体格のいい男がリーダーのレラフ。寡黙な性格らしく、最初に挨拶をした後は積極的に会話には入ってこない。その隣でレットに絡んでいるのがジェイスで、こちらは随分とテンションが高い。彼はレットと歳が近いらしく、絡まれているレットの方も嫌がる素振りは見せていない。
そしてハダリーの、レットとは反対側の隣に座っている女性はヤコというらしい。ふわふわした長い金の髪を揺らす彼女は、このテーブルへついて真っ先にハダリーの側の席を取りにきた。今も“新入り”であるハダリーにやたらと甲斐甲斐しく世話を「飲んでるかぁ、ハダリーちん
#12316;」
「はい、いただいております」
「固い、固いぜハダリーちん。もっと飲んでいいんだよぉ、今日はリーダーのオゴリなんだから」
「ちょっと、やめなよ」
その向こうからヤコを咎めたのは黒い短髪のローズだ。このメンバーの中では最年少で、その顔にはまだ子どもの面影すら残している。最初にジェイスにエールを勧められたが、「僕はいいよ」と断って今は一人だけレモネードを飲んでいた。一同の顔を見る限りこれはいつものことらしい。
「それにしてもレット、羨ましいぜ、こんな美人と組めるなんて」
「おぉん? ヤコさんだって美人でしょうが」
「姐さんはリーダー一筋じゃん……。なあハダリーちゃん、こいつに襲われないように気をつけなきゃダメだぜ?」
「だからやめなっ……もういいや」
「ジェイス
#12316;、レットにそんな甲斐性あると思う?」
「あーまあヘタレだからな、レットは」
「怒るぞ、おい」
口々に勝手なことを
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