このようして、俺の日常は突然やってきた一匹のモスマンの手で大きく変わった。
マユは昼間はよく働き、夜になると蕩ける様な雌の笑みと共に俺のベッドに潜り込んできた。
マユがよく働いてくれるので俺は今まで以上に寝室から出ることが少なくなり、一日中ベッドの上から動かない日も多くなった。そんな日でもマユは食事を寝室まで運んできてくれて、文句も言わず話し相手になってくれた。
俺は、少しでもマユが暮らしやすいようにと家中の窓の鎧戸を締め切り、日の光を遮断した。マユは少し心配そうにしていたが、どうせ部屋から出ない俺にはあまり関係のない話だった。
マユは、暗闇の中ではいつもより活動的になる。部屋の中でも宙を舞ったり、天井に逆さまにぶら下がったりする。後から本人に聞いたところ、モスマンの鋭敏な感覚器官にとって日光は強力なノイズのようなもので、それらが無いことで感覚器官をフルに動かせるようになるのだという。
春が終わり、夏になった。
商店からの金の受け取りは完了してしまったが、マユが山から食料を調達してきてくれるので、不安はなかった。
俺たちの日常は楽しく過ぎていった。
マユは、本当にいい子だ。俺にはもったいない程に。
だが、俺はかねてより、彼女に一つだけ不満があった。
彼女は毎夜、俺の相手をしてくれる。それは当然俺にとっても喜ばしいことではあるが、同時に魔物である彼女と交わるのは俺の義務であり、彼女の働きに対するある種の報酬であるとも考えていた。
……いや、交わるというのには語弊がある。なぜならば初めてマユが夜這いに来た日から今に至るまで、彼女は手での奉仕はするものの、それ以上のことはしなかったからだ。
そしてある晩、俺は遂にそのことを彼女に尋ねてみることにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その日、マユはいつも通り俺を後ろから抱き込むようにして奉仕してくれていた。
マユの絹のように白い指が男根を這う。首筋から柔らかな乳房の感触と体毛のこそばゆい刺激が同時に伝わる。
「マユ、お願いがあるんだけど……」
「どうしました? 旦那様? お射精はまだ我慢ですよ?」
昼間は聞けない、少し厳しい口調が飛んでくる。細い指にグッと力が入り、男根を締め付ける。
「うっ……、いや、そうじゃなくて、なんでいつも手だけなんだ……?」
「手だけ、とは?」
「だから、何というか……あの、そろそろ、セックスとか……」
背後でマユの身体が硬直する気配を感じた。
身体の正面を弄繰り回していた手がしゅるりと肩に回り、俺の身体をぐっと前に押しのける。
「だ、旦那様、なんてお戯れを!」
マユの声が微かに震えている。肩に当たる手から、彼女の体温が急激に高くなったことがわかる。
「良いですか? セックスは、いけません。そんなことをしては、赤ちゃんが出来てしまいます。そういうのは、夫婦でやることです!」
「そんな! 俺はマユのことが好きだし、出来ればこのまま嫁に来て欲しいとも思ってるよ!?」
「な!?」
背後から、聞いたこともないような素っ頓狂な声が上がる。
マユは熱を帯びた額を俺の首筋に当て、フルフルと首を横に振った。二本の触覚が、頬を交互に柔らかく撫でる。
「いけません! いけません! 私は天涯孤独の身! そしてここは教団の影響下にある土地です! 今は何とか隠れ住んでいられていますが、いずれ私も見つかりましょう! そうなれば、私は旦那様の前から消えねばなりません! いずれ必ず別れが来ると分かっていて、旦那様の妻になることなどできません!」
この発言には、むしろ俺が驚いた。
今、マユは何と言ったか。俺の前から消えなばならぬと、いずれ必ず別れが来ると。そのような未来を俺は一切想定していなかったし、許容するつもりも無かった。
「別れって、そんなの来るわけないだろ! 家を締め切ってる限り教団には見つからないし、見つかったとしても二人で何処かに逃げればいい!」
ついつい語気が荒くなる。
それは……、とマユが口籠った。俺は畳みかけるように続けた。
「君は、俺に一生尽くすと言ったじゃないか! ありゃ嘘だったのか!?」
俺は肩を掴むマユの手を振りほどき、振り返りざまにがばっとマユを押し倒す。
そうだ、このまま挿れてしまおう! そう思い彼女の身体の上でもがくも、上手くいかない。
そうこうしているうちに、マユは私の手の中からするりと抜け出てしまった。
「旦那様は、そこまで私のことを思って下さっていたのですね……」
暗闇の中、マユの身体がふわりと天井に舞い上がる。夜目が聞かない俺には、彼女の姿が捉えられない。
「マユ! どこに行くんだ!」
「ご安心ください旦那様。マユはどこにも行きません」
天井の、隅の方から声がする。そして、上空を
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録