翌日から、マユは大変甲斐甲斐しく働いてくれた。
まず彼女が取り組んだのは、食事だった。
朝、マユが何やら台所回りの収納をゴソゴソと漁っていたので、どうしたのかと聞くと、朝食を作るための食材を探しているという。
俺は、保管棚に無造作に置かれた巨大な干し肉の塊を指さした。
彼女が不思議そうに、お野菜は? と聞いてきたので、いつも干し肉を齧って食事としていることを正直に告げた。
途端に、マユはぷりぷりと怒り出した。
「いけません! そのような偏った食事ばかりしていては、体調を崩してしまします!」
そして、しばしお待ちを、と言って裏口から山に向かって飛び出していってしまった。
今日は厚い雲が出ていて太陽が隠れているとはいえ、夜行性であるモスマンにとって昼間は辛い環境なのではあるまいか。
半刻もせずに戻ってきた彼女の手の中には、数種類の山菜と果実が握られていた。
彼女は収穫の半分を使って、簡単な朝食を作ってくれた。
久しぶりに食べた植物由来の食べ物は、身体が求めていた味だと感じられた。
朝食が終わると、マユは掃除を始めた。
どこから引っ張り出してきたのか、彼女は俺のお袋の割烹着を着こんでいた。
お袋の割烹着は後ろで紐を結んで固定するタイプのものなので、彼女の白い翅を傷めることはない。
両親がいなくなってから埃がたまる一方であった我が家は、俺が食後の睡眠から目覚める頃には見違えるほど綺麗になっていた。
また、普段使わないような荷物も片付けられ、家が少し広くなったようにも感じられた。
片付けられた荷物は、両親の所有物含め床下収納や使っていなかった棚に見事に収められており、マユが家にあったものを勝手に捨てたということは無かった。
さらに彼女は洗濯もできた。
桶に水を張り、溜まりに溜まった洗濯物を何度かに分けて揉み洗いをする。
マユは日光があまり得意ではないので、洗い物は室内干しをすることにした。
天井に縄を張り、狭い室内を自在に飛び回りながら凄い速さで洗濯物を掛けていくマユを、地に這いつくばるしかない俺はぼんやりと眺めていた。
彼女はあらゆる家事を次々と手際よくこなしていき、俺が半年間サボっていた仕事の山はあっという間に片付いていった。
流石に申し訳なくなり、何か手伝おうとしても「お気遣いなく」と笑顔で返してくる。
確かに俺が手伝っても足手纏いであることは確実であるので、結局俺はその言葉に甘え、いつも通り寝室に籠りうつらうつらしながら一日を過ごした。
そして、夕飯の用意が出来る頃には山積みだった仕事の約半分が片付いていた。
夕食は、今朝とってきた山菜の残りを、味付けを変えて干し肉と炒めたものだった。
マユは食事の席で、「明日は台所の雑巾がけと収納戸の整理をいたします」と何故か楽しそうに話していた。
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夕飯を終えた俺は、いつものように寝室でゆっくりと時の流れを楽しんでいた。
マユは夕食を終えるや否や、裏の山に食材の調達に行ってしまった。
今朝採ってきた食材はすべて使ってしまったし、明日はもっと多品目の食事を作ると張り切っていた。
村の焦点が使えればいいのだが、この村の人々は教団よりであるため、彼女を買い物に行かせる訳にはいかない。
俺が買いに行ければいいのだが、あいにく指輪買い取り金の受け取り日以外は、外に出る気が起きなかった。
今日一日で、俺の生活は大分人間らしいものへと変わったと思う。
家に魔物がやってきて、「人間らしく」変わったというのもおかしな話ではあるが。
(なんだか今日は疲れたな……)
いろいろと慣れないことがあったからだろうか。
俺は、ゆっくりとまどろみの世界に落ちていった。
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真夜中。
俺は何やら人の気配で目を覚ました。
暗闇の中、枕元に腰掛け、俺に笑みを送るマユ。
明りといえば、窓から漏れる月明かりのみ。
だがそんな中にいて、彼女は昼間よりもだいぶ妖艶に見えた。
「あら、起こしてしまいましたか?」
「マユ? 帰ってきたのか……」
寝ぼけ眼で応答する。
「ふふ、山から戻ってきたのなんて、随分前ですよ? 旦那様が随分と穏やかなお顔で眠られていたので、暫し見入ってしまっていたのです」
「そうなのか……。もう遅いし、疲れただろう。君も休んだ方がいい……」
「私はモスマンですよ? むしろ、これからが活動時間です」
寝ぼけていらっしゃるのね、と、彼女は私の頬を
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