ダイヤの間:イカサマババ抜き(後編)

(『まさかあんなくだらない手にかかるとは。とにかくダイヤを親に戻そう』……ってところかな)
 ダイヤはギャリーのポーカー・フェイスを見つめ、その奥の真意を探りとっていた。表情からすべてが分かる訳ではない。挙動の端々に現れる癖、これまでのゲームの展開、相手に何が見えているのか。そういった要素を総合的に分析するのだ。相手が程度のいい実力者であるなら、その思考をジャックすることさえそう難しくはない。具体的にはクローバーみたいなタイプがいいカモだ。
(『だがイカサマの腕前はダイヤが上。なにか奇策を練らなくては』……そんなこと、させないんだよねぇ)
 ダイヤは自分の手番の終わり、移動するカードにギャリーが気が取られた一瞬……『意識の瞬き』の瞬間を狙い、手札からまた一枚カードを処分した。処分したのはJOKERでもQでもない、凡カード。だがこれにより、巡るカードの中にダイヤしか知り得ない新たなババが生まれた。
(さっきまでに消したカード、そしてギャリーちゃんに回収させたカードも加えて、これでババは場に10枚……全体の4割以上がババということ。つまり、もはやイカサマなくしてアガリ無し。ギャリーちゃんの勝ちの芽は摘まれた……!)
 人知れず場を支配したという優越感。
 だが、今はそれに酔いしれている時ではない。最後の仕上げに移らなくては。
(全てを失ったギャンブラーが最後に頼るモノ……即ち勝利への執念! それが失われるまで、安心はできない……。完璧に安全に、イカサマを成功させる為には……!)
 ダイヤはにやりと口角を吊り上げると、テーブルの下で踵同士をこすり合わせるようにして靴を脱ぎはじめた。


#9830;
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(ダイヤめ、また一枚消したか。なんとかして、現状を打破しなくては……)
 ギャリーは冷めた紅茶を一滴残らず飲み干し、とりあえず状況を整理した。
 このままではワンサイド・ゲーム。状況を打開するためにはダイヤを親に戻す必要があるが、残念ながらイカサマの腕前はダイヤの方が上。奇策を練る必要がある。
 全員の手札の枚数を改めて確認する。

 全員の手札をめぐる1枚を除けば、手持ちカードは以下の通り。
ダイヤ:4枚
ポット婦人:5枚
ギャリー:6枚(内Q1枚)
キャンドル男爵:8枚

(気が付けばダイヤが一位……。この状況を最大限に活かすには――)
 ――もにゅり。
 そのとき、ギャリーの膝に何か柔らかいものが触れた。
 疑問に思うより先に、その『柔らかいもの』は滑るようにして足の間に潜り込み、ギャリーの丁度股関節の辺りを踏みつけた。
(ん!?)
 見れば、目の前に座るダイヤが椅子からずり落ちるような、明らかに不自然な体勢になっている。自分の股間を踏みつけているものがダイヤの足だと悟ったギャリーは、股を閉じてダイヤの小さな足を捕まえた。
「おい」
 咎めるように、ダイヤを睨む。
 ダイヤは拘束から逃れようと足をもぞもぞと動かし、困ったように笑った後――輝く指先で空中に小さな円を描いた。
 瞬間、魔煙と共に男爵と婦人の姿がぐにゃりと歪み、二人はダイヤそっくりの容姿に変貌した。
「なにっ!?」
「安心して、ゲームには直接関係ないから。……ただ、ギャリーちゃんの為にもね?」
 テーブルの下、左右から足が伸びてきて、ギャリーの膝を捕まえる。それは万力のような力でギャーリーの股をこじ開け、その動きを封じた。
「貴様……」
「ほら、次はギャリーちゃんの手番だよ。言っとくけど、途中で席を立った者は棄権したとみなすから、そのつもりでヨロシク」
 そう言って微笑むダイヤだが、どのみち両足を押さえられているため身動きは取れない。
 ポット由来のダイヤの分身が、ずいと手札を押し付けてくる。その目に光はなく、男爵同様ただの人形のように見えた。
 軽く舌打ちをしてから、一枚引こうと手を伸ばすギャリー。
 と、カードに手を触れようとした時、ダイヤの足が股間をぎゅむりと踏みつけてきた。
 鈍い痛みに口元が歪む。
「あ、ごめん。痛かった?」
 悪戯っぽく笑うダイヤ。
「許してね? 慣れてなくて……。ふふふ、イタイのイタイの飛んでけー☆」
 今度は、親指の先で優しく撫でる様に股間を上下に擦り始める。抵抗しようともがくギャリーだが、足に力を込めるほど、左右からの拘束は厳しくなっていく。
「さあ、ギャリーちゃん、手番を進めて……。じゃないといつまで経っても終わらないよ?」
 促されたギャリーが分身(ポット)から引いたカードは4。手札内でペアが完成したことで、カードの処分に成功。その後分身(キャンドル)に一枚引かせ、現状の手札状況は以下の通り。

ダイヤ:4枚
分身(ポット):5枚
ギャリー:4枚
分身(キャンド
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