「あ゛ぁああああぁああああぁあああああああ!!!!」
アリーシャが絶叫しながらサラに襲い掛かる。
早い! 先程までの戦いでは、これほどの速度は見せていなかった。さらにその腕は激しい炎に包まれ、それを大きく振りかぶり、弾丸のごとくサラに殴り掛かる。
「ひぃ!?」
サラが頭を抱えてしゃがみこむ。
すると、大ぶりのパンチを盛大に空振ったアリーシャは、自分の勢いを制御できずにそのまま前方の廃墟の壁に激突し、それを突き破った。
天井が崩れ、派手な倒壊音と共に瓦礫がアリーシャを飲み込む。
サラも、ミーファも、エミール少年も、何が起こったのか分からずただただ呆然としていた。
と、突然瓦礫の山から火柱が上がったかと思うと、廃材を吹き飛ばして中からアリーシャが飛び出してきた。
「ズァああああああああああ!!!!」
上空から炎と共にサラを急襲するも、サラが悲鳴を上げて逃げ出したことで、またもその攻撃は不発に終わる。
アリーシャが殴りつけた地面が大きく陥没し、周囲から火柱が吹き上がった。
「があああああああああああ!!!!」
アリーシャは執拗にサラを狙うも、サラがちょこまかと逃げ回るせいで攻撃が当たらない。
サラがかわしているのではない。アリーシャが外しているのだ。
彼女の動きに、先程までの繊細さは一切ない。大振りで力任せの、大雑把なテレフォンパンチ。動きは早いが単調で、相手目がけて真っ直ぐに突っ込むばかりの姿はまさに猪武者といった感じである。
本当にこれが、先ほどまで自在に動く影の蔦を体捌きだけでかわしていた魔物と同一人物なのだろうか。
「うわぁ!」
度重なる連続攻撃に、ついにサラが体勢を崩す。
アリーシャはこれを見逃さず、地面でもがくサラに向けて両手を組んで振り上げる。拳どころかその体全体が、激しい炎に包まれる。
「サラ! 頭を上げるんじゃなくてよ!」
両手を上げたことで完全に無防備となったアリーシャの脇腹目がけて、編み込まれて人の胴体ほどの太さになった影の蔦が、しなる様に叩き込まれた。
脇腹の薄い皮膚の下には無防備な肋骨がある。即ち人体の急所。そこにもろに攻撃を食らったアリーシャは、メキメキという嫌な音と共に体を横にくの字に折り曲げ、自身の炎を纏い回転しながら吹き飛んだ。
そうして、なにやら煉瓦造りの倉庫の様な建物の壁を突き破り、その中に突っ込む。
すると、倉庫の中から激しい爆裂音が響き始める。
立ち込める煙の中から、炸裂音と共に色とりどりの無数の火の玉が、尾を引いて四方に噴出する。
「な、何が起きてるんですの!?」混乱のあまりヒステリックに叫ぶミーファに、命が助かったことが信じられないのか少し放心気味のサラが答える。
「あぁ、あれは、火薬庫、ですよ……。夏至祭で、来週使う、花火に、引火したんでしょう……」
そうして、鮮やかな爆発を見ながらぽつりと呟いた。「今年の夏至祭は花火なしかぁ……」
ふと、周囲が騒がしくなっていることに気が付く。
見れば、周囲の家々の窓に明かりが灯っている。中には窓から身を乗り出して爆発を見物している者もいる。
「しまった! 騒ぎを大きくし過ぎた!」
サラが跳ねるように立ち上がる。
「ボス、姉御、早くズラかりましょう! この騒ぎだ、すぐに衛兵が来る!」
ミーファは自分の足元を見て、影縫いが解けていることに気が付いた。
まだ宙に浮くだけの魔力が回復していないので、よたよたと慣れない二足歩行を試みる。
「どうしたんですか姉御急いで……って、姉御! 腕! 腕!」
動けないエミール少年を背負ったサラであるが、ここでようやくミーファの片腕がなくなっていることに気が付いたのか、慌てた様子で指摘する。
「黙りなさい! 腕は問題ないですわ! でも、飛ぶだけの魔力が残ってなくて……よ、ほっ」
片腕でバランスを取りながら、二足歩行を覚えたての子供のように頼りない足取りのミーファを見てじれったく思ったのか、サラが彼女をひょいと小脇に抱える。
「ちょっ、何するんですの!」
「暴れないでください……ってか姉御、体重軽っ!!」
そうして二人を抱えたサラは、手近な整備口から下水道へと潜り込んだ。
☆
地下に潜り、ミーファ、サラ、エミール少年の三人は、ようやく一息つくことができた。
「二人とも、見ました!? アタイ、クノイチを倒しましたよ! 裏社会で恐れぬ者などいない最強の刺客、クノイチを!」
ここにきて、自分の成したことを理解し始めたのか、サラが急にはしゃぎ始める。
はぁ、とミーファがため息をつく。
「馬鹿おっしゃい。向こうが魔力のコントロールを失ったのが原因ではないですの。相手の自滅ですよ自滅」
そうして、そっとサラの手をとる。
「やっぱり。貴女、相当魔力
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