B兵舎
B Barracks
22時 19分
22:19
「え、と じゃ、あの切り株でいっか。座ろ」
お盆を持って、飛行長に促されるまま、わたしたちは近くにあった切り株の上に座る。
……もちろん、飛行長は相変わらず下半身すっぱだかのまんまである。
とげとか刺さったりしないんだろうか……?
「あ、えーと おしり、大丈夫なんですか? とげ刺さったり……」
「え? うん、大丈夫だよ」
大丈夫らしい 触ってみれば、伐採されてから結構年数が経つみたいで、表面はほのかに丸みを帯びていた。
きっと、刺さりそうな部分はあらかた腐ったり風化してしまったあとなのだろう。
「じゃ、いいんだけど……あ、砂糖とクリームこれです。それとお茶菓子にクッキー持ってきましたから、食べるならご自由にどうぞ」
お盆の上のものを、その辺に適当に置いていく。
まずカップは手元に。クッキーは二人ともが取りやすいように、袋を開けてその間に。
でもって、その後ろにお盆。砂糖とクリームは、その上に乗せたままにしておく。
「うぉっほう、クッキーまで! 気が利くねー!」
飛行長はかなり喜んでくれたようだ。ここまで喜んでくれるなら、わたしも悪い気分じゃない。
「しっかし、あれだね、妙に手馴れてるような……。もしかして、どっかでメイドでもやってたとか?」
ちょっと前からわたしの手つきを難しそうな顔で眺めていたかと思えば、飛行長はまた変なところに話を振ってくる。しかし、今回はあながち外れでもないので、わたしはすこし驚く。
うん、ふつうは給仕の方が先に出てくると思うんだけど。なんでだ?
「え、メイドですか? んー、似たようなことはしてたかもしれませんけど」
「ありゃ、まさか当たるとは。意外」
「ってことは、まさかただのカンで?」
「うん」
あっけらかんと答える飛行長。なんでただのカンでここまでピンポイントに言い当てられるんだ。くだらないことに対する、信じがたいほどの謎のカンの鋭さ。これもまた、第二の連中にはなぜだか普遍的に見られる特徴であったりする。
「うそ……。ああでも、当たらずとも遠からず、ですよ」
「ふーむ……」
そう、あれは いまから10年くらい昔、前にいた西リーメスサバトの展開した事業の一環として、わたしは確かに、それっぽいことをやっていた というよりは、まあ、半強制的にやらされたに近いのだが、とにかく、そういう経験があるのだ。
なぜだか割と評判だけは良かったらしいが、もう一度やりたいかと聞かれれば、二度とお断りだ。とにかく、いろいろと疲れて、疲れて、仕方がなかったからだ。そのあと、結局、半年と持たずに辞めてしまった。
まあ、接客業というやつに対して、そもそも適性があったわけじゃなかったんだろう。
もっとも、そのときの経験は、ときおり、こういう形で役に立つことがあるわけなので、完全に無駄な労苦だった、というわけでもないのだが。
飛行長には、おおむねこういう話をした。
それと、さっきのコーヒーの並べ方については、確かに当時やってたそれに近いものを意識したものだった、ということも付け加えておいた もちろん、本当は、盆の上にものを置いたりなんてしなかったわけだけど。
「……まあ、大体そんなわけなんです」
「へぇーえ……」
飛行長は神妙な顔でうなずいた。本当に短い話だったけれど、まあまあ満足いただけたらしい。
ちなみに、その当時の服は、実はまだ持ったままだったりする。ただ単に、捨てていないでずるずるとここまできてしまった、というだけなんだけど。
サイズが合わなくなるなんてことは、このからだのせいで、きっと半永久的にないだろうから、いまも、まあ、着られることには着られるんだろうけど……。先述の通り、個人的にはあまりいい思い出じゃないので、これは飛行長には秘密にしておいた。
「ほんっと、人生って何があるかわかんないよね……エレイナちゃんがメイドさんかあ。あーあ、ちょっと見てみたかったなあ」
「いえ、 もう昔の話です。それに、わざわざお見せするようなものでもないですから……」
「ふーん……?」
飛行長の声には、なぜだか、面白がるような感じがあった。何かを見透かした顔をする
……待て。何だかもの凄い勢いで雲行きが怪しくなってきた。
「でもさ、なんか、そう言いながらも、けっこう自信あったりしたんじゃない?」
「え?」
「んとさ。ほんっとうにそれが嫌で嫌でたまんなかったひとってね、絶対に自分からそういう話はしないものなんだよ?」
何だって?
驚き。そう、虚を突かれたという感じ。
でも、飛行長の声は、確かに冗談めかしているとはいえ、とても嘘をついている
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