#1: 司令棟(1階)/給湯室 22時 07分 -

司令棟(1階)/給湯室
Command post(floor 1) / Kitchenette room
22時 07分
22:07



     そろそろだろうか。のぞき窓に噴き上がるコーヒーの色を見る。
 案の定、ちょうどいい塩梅だとわかった。

 パーコレータを火から下ろして、コーヒーをカップに注ぐ。
 カップは二つ。一つは、もちろんわたしの分。
 もう一つは    第二から派遣されてきた、ハーピーのオレリア飛行長の分。
 パーコレータはあとで洗うことにして、一まずは水を張って放置しておくことにする。

 男の分?
 もちろんなしに決まっている。物資は貴重なのだ。部外者の分なんてない。
 だというのに……。気に入らない、まったく。

 胸の中で何度舌打ちをしたかしれない。「上層部は何のつもりだ」なんて、紋切りなセリフを吐きたくもなってくる。

 第二の連中ときたら、いっつもこれなのだ。兵舎にまで男を連れ込んで、見せつけるように。これ見よがしに。ことごとくが、わたしたちの目の前でもお構いなしに散々いちゃこらねとついてくれやがるのだ。男ができた途端に手のひらひっくり返して、「第一時代なんてもう忘れたわ」、とでもいわんばかりに……。
     いや、実際あいつらは見せつけているのに違いないのだ。どうせ胸の内では「わたしたちが愛し合ってるとこ、思いっきり見せつけてやりましょ?」なんてささやき合って、結果として普段の3割増し程度にサカっていらっしゃるに違いないのだ……。
 だああ、ちくしょうめ。戦場はお前らのためのロールプレイ会場に過ぎないってのかね。
 わたしら第一なんて、お前らにとってみちゃ所詮興奮剤くらいにしか過ぎないってのかね。

 ましてや、今日は満月なのだ……。

 ああ。
 この理不尽を、はたして嘆かずにいられようか。
 論を俟たずわたしには無理だ。

「はぁぁ……っ。たく    」
 戦争は遊びじゃないんだよ。
 どこの誰が言ったかまでは知らないが、本当、その通りだと思う。
 我らが第一にとっちゃ、これは貴重な婿探しのまたとない機会なのだ。
 特に、今回のは。
 我らが第1陸軍の創設以来、初めて経験することになる、数十万人規模の大規模会戦である。

 ……だというのに、まあ第二の連中ときたら、いつでもどこでもとことん余裕綽々であらせられるのだから、まったく腹が立つ。
     そのあげくの極めつけには、今回のわたしの仕事ときたら、そのオレリア飛行長のためのオーグメンタの調整、ときたもんだ。
 ほんっと、傑作だ。
 もう笑えてくる。嫌がらせとしか思えない。誰だこのシステム考えたの。

 だがそれでも、仕事は仕事なのだ。やらないわけにはいかない。
 まずこちらが最善を尽くさずして、どうして向こうがそれに応えてくれようか。

 とにかく第二入りしたいというのなら、戦って、勝つしかないのは、誰だってわかりきっている。
 そのためにも、むろん我らが第1陸軍のためにも、彼女には全力で働いてもらわなきゃならない。
 でもって、もちろんそのためには、わたしだって全力を尽くさなきゃならない、というわけだ。
 うん、理に適っている。実に理に適ってるじゃないか。

     それでも、気に食わんものは気に食わんのだ。
 ああ、まったく……。

 もちろん、そんなことを考えてみても、腹立たしさは消えてくれない。

 そんなときは、もう、何も考えないのが一番いい。
 内なる無神経を啓発しろ。世界一鈍感な女になれ。
 正しいから正しいというトートロジ    これは違った。

     まあ、なんだっていいさ……。

 コーヒーはまだ、飲むには少し熱すぎるようだった。まあ、持っていくうちに冷めるだろう。
 途中で落としてもこぼさないよう、しっかりとカップのふたを確認する。
 クリームと砂糖の小瓶、それと手近にあったクッキー一袋を盆に乗せて、    それと、念のためリヒータも二つ持って、わたしは飛行長らに割り当てられたB兵舎へ向かう。



 □ □ □ □ 



A兵舎
A Barracks
22時 10分
22:10



 空に雲はなく、満月は眩しいくらいに明るい。
 淡くもくっきりとした月明かりが、地面に鋭く落ちている。
 周りが森だからか、外の空気は湿っていて、思ったより肌寒い。何か羽織ってくれば良かったかな、とちょっとだけ考えた。

 兵舎はところどころ、ぽつぽつと灯りがついている。
 本来、淫魔っていうのは夜の魔物だ。
 だから、わたしたちも、自然、気をつけていないとすぐにそうなってしまうというわけだ。

 虫の声、さらさらと静かな風の戦ぎ。
 廊下を通り過ぎるとき、かしましい話し声に混じって、ときおり、自分を慰めるか細い喘ぎが
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