#:4 [補、乃至、真: 繚乱]

#:4 -1



 結論。
 ――やっぱり、降格した。



[ RECEIVE ( FROM: SYSTEM OPERATOR | FIONA ) ]
  [[ 《 戦闘終了 》 : [ 作戦終了です。お疲れさまでした。 ] ]]

「あの、おじょ、……お客さん?」
 失意に突っ伏していたあたしに、ここの若い女性店員さんが、半ば以上に崩れかかった営業スマイルと、同じくらい引きつった声色で、かなり控えめに声をかけた。
「ンァぅう? ――や。え。あ、……はい?」
 我ながら凄まじい声で返事したものだ。――今、あたしはどんな顔をしているのだろう?
「えー、と……だ、大丈夫? ……ですか?」
 恐る恐る、といった口調、取ってつけたような敬語。まるで腫れ物か壊れ物に触れるような。
 大丈夫? って、何が?
 ――などと言い返そうと思ったけれど、自分が何をやったか思い出して、やめた。
 明らかに大丈夫でない。精神も、恐らくは顔も。
「だ、大丈夫です……。――その、ご、ごめんなさい、いろいろと……」
 今、あたしはどんな顔をしているのだろう?
「……。次からは、あの、叫んだり、しないで下さいね。他のお客様に、御迷惑ですので……」
「は、はい……」
 やっぱり。やっぱり、あれ、叫んでたんだ。
 その瞬間、顔が真っ赤になるくらい熱くなって、そして、全身が縮こまるような思いがした。
 周りにいる全員の視線が刺さるようで、全員の耳が傾いているようで、全員からいなくなってほしいと、言外に排斥されているような気がした。
 いや、――きっとそうなのに違いなかった。
 あの二人組が笑っているのは、きっとあたしの事だ。
 そこの人が話しているのは、あたしの悪口なのだ。声が小さいのは、あたしに聞かれないためなんだ――。
 ああ、嘘だと言ってよ、誰かぁ……。
 ……。
 ――もう、二度とこのゲーセンには来られないよね。いくらなんでも、恥ずかし過ぎるよ。
 みんな割とマナーよかったし、話も出来たから、好きだったのに……。
 でも、やっぱりみんなあたしの事……。ああ……。
 あああ……。
 ゲーム終了ボタンをタッチ。
 変換素材は――、鉛板一個。
 こんな日は、何もかもが悪い方へ転がってゆくのだ。――って、村上春樹が言っていた。
  [ RECEIVE ( FROM: SYSTEM OPERATOR | FIONA ) ]
  [[ 《 GAME OVER 》 : [ ICカードを忘れずにお持ち帰りください。 ] ]]
 椅子の上に膝立ちになって、自分のカードを抜き取る。
 椅子に掛けたコートに袖を通して振り返ると、……この場にいる全員が、あたしに耳をそばだてている。あたしの次の失言を、心待ちにしている……。
 あたしの方を、さげすむような眼で……。
 限界だった。
 出来るだけ、誰の顔も見ないように、そして、誰にもあたしが見えないように、聞こえないようにしながら、何とか、店の出口へたどりついた。
 ドアが開く。
 自動ドアだけは、絶対にあたしを罵ったりしない。当然だ――自動ドアにとって、あたしはセンサーに感知され、モータを働かせるためのトリガーに過ぎないのだから。
 冷えた空気が、興奮と後悔の残滓を、少しずつこそぎ落としてゆく。
 外へ出ると、街は夜で、駅前はいつものように眩しかった。
 街はもう年末シーズン。どこのお店も、年末商戦に忙しそうだ。
 裏通りから流れてくる夜風が冷たくて、油臭くて、湿っぽい。
 あー、もうやだぁ……。泣きたい。誰か胸貸して。
 ……。
 ……やっぱ、いいや。こういう時は開き直るのが一番だ。
 へっ、どーせわたしゃあ独り身ですよー、だ。
 そうだ。あたしがこんなんでどうする。あたしゃサバトの長、魔物の幼い斬り込み隊長、バフォメットが一人じゃないか。さあ元気を出せ、あたし!
 でも、ここでやおら振り返り、かつてホームだったゲーセンに舌を出せるだけの勇気は、残念ながらあたしにはなかった。
 良く見知った常連仲間の誰かが、まだあたしの方を見ている気がしたからだ。
 ……どうして、急にそんなことを思いついたのだろう。思い出そうとしても、次の瞬間にはもう忘れていた。
 ま、どうだっていいや。何にしても、こことは、これでさよならだ。もうここに来る事もないだろう。
 ロングコートに両手を突っ込んで、駅前ロータリーへ歩き出す。
 もう一か月もすれば、クリスマスに年の瀬かぁ。――そういえば、今年ぁうちのサバト、ハロウィンにも、万聖節にも、死者の日にも、文化の日にも、ユネスコ憲章記念日にも、ガイ・フォークス・ナイトにも、ロシア革命記念日にも、――一次大戦終戦記念日にも、ゲティスバーグ演説の日にも、イトカワにはやぶさが不時着した日にも、E=mc^2
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