尻穴性交

 これまで、フリストは宿に泊まることを良しとしなかった。
 それは野営に慣れている方が心身の成長に良いと見定めていたからで、事実、野営していると野盗などが時折襲ってきて、眠りの間も緊張出来た。危機管理能力という面を育てるには、わざわざ宿を取って路銀を使うことはない。
 が、ここのところは泊まりたがる。
「この先の宿場を超えれば、野営することになるでしょう。しかし昨日は雨が降りました。地面はまだ濡れているかもしれませんし、なにより薪が乾いていない。火が使えなくては暖も取れませんし、今日は宿に泊まりましょう」
 この理屈は説得力があったが、時には子供の言い訳よりも苦しいことがある。
 フリストはとにかく宿に泊まりたがる。
 本人はその自分の変化に戸惑うばかりで、なんら答えを出せずにいる。取り敢えず、自分を納得させるたびに、
「ヘルゲも成長した。最早野盗なぞは体力の無駄で、訓練にはならないのでしょう」
 そう結論付けた。
 が、ヘルゲは実感がある。
「野盗や獣に邪魔をされるのが不快なのだ」
 ヘルゲは、夜になると決まってフリストを求める。何度抱いても飽きることはないし、フリストの変化がやはり面白い。子供が玩具に夢中になるように、ヘルゲはフリストを楽しんでいる。
 特に、以前と変わらない昼のフリストが、夜になって求められると変貌するのが堪らない。
 以前、野営していた時、ヘルゲがフリストを求め、渋々といった風情でフリストが応じ、愛撫も終わっていざ事に及ぼうかと言う時に野盗に襲われたことがあった。
 ヘルゲも、最早野盗如きは苦にならないので、拳骨を食らわして退散させようとしたが、その時のフリストの追い払い方が凄まじい。
「葉でも幹でも茎でも、食べようと思えば食べられるのに、それを怠って他人の食料を狙うとは恥知らずな」
 尤もらしい理屈を捏ねながら、立てなくなるまで打ち据えたのである。
 その怒り方はヘルゲにするのとは正に格が違った。
 更に、恐怖に怯えた野盗に、自身が打ち据えた二、三人の首根っこを掴んでは投げ、
「二度とわたくしの前に現れないように」
 と怒号した。当然、蜘蛛の子を散らすように退散した。
 その後、フリストがヘルゲを組み敷くように寝かせ、自ら跨って腰を振った。その時のことを振り返る度、フリストは、
「早く済ませて眠りたかっただけです」
 冷たく言うのだが、そうとは思われないほど悦んでいたように思う。
 そういうことがあって、この日も宿に泊まった。
 宿に泊まる時間というものは、旅慣れた者なら早い。日暮れと共に寝て、夜明けと共に出る。それが最も早く目的地に辿り着く手段だからだ。
 フリストとヘルゲに、目的地というものはない。
 道程も、北に行けば東に行き、そこから南に入って西を目指し、そこから東へという無軌道なものだ。
 世の難事を求めながら、ヘルゲを鍛えていく。宿を定めるより、この方がやりやすい。
 だから宿には、少しくらい長く留まっていても別に構わない。
(なにか、わたくしは馬鹿なことを考えているのではないかしら)
 フリストは、体に巣食った甘い疼きを自覚して、そう首を傾げた。
 実のところ、フリストの性交に対する嫌悪感というものはもうほとんどない。ただ連日求められるままに応じ、その度に淫らな痴態を演じる自分が恥ずかしい。
 だが恥ずかしいからと尻込みをするのは、フリストの矯激な性格を考えるとありえない。だからフリストは、もう性交に関して然程の抵抗感を覚えていない。
 だが、体は望んでいる。朝は平気なのに、昼を過ぎればもう体が期待して疼きだし、ヘルゲの誘いを今か今かと待ち侘びていた。そういう自分の反応が、高潔なフリストには耐えられない。
(戒めなければ。わたくしの本性がたとえ淫売であったとしても、それを知性と理性で律してこそ戦乙女)
 さすがに、フリストは識者である。
 自身の本性を独断と偏見で卑下しても、それらを包み隠す美徳を自身に備えようとしている。
しかし実際のところはどうだろう。魔物化という変質がフリストの精神に異常をきたしているだけで、真実フリストが淫らということはないだろう。
 いや、そもそも淫らで何が悪いと、ヘルゲなどは思うのだ。
「淫蕩で良いではないか。動物を見ろ。雄と雌なら性交は寧ろ推奨されるべきものではないか。人間がそれに反していかんということは通らないだろう」
 口にはしないが、そういう思いがある。
 だから、フリストが努めて自身の欲望から目をそらし、何事かで覆い隠そうとする姿は、とてもいたましい。
(口で言って判ってくれる方ならいい)
 説いたところでフリストは聞かないだろう。彼女の性格がそうさせる。
(ならやはり、堕落させるしかない)
 ヘルゲは心で誓った。
 誠実な心境で、そこにヘルゲ自身の
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