フリストは、自身の異常を触覚よりも聴覚で知った。
といって、触覚が機能しなかったわけではない。鋭すぎる聴覚が、先に異常を発見したに過ぎない。
元々、生物が息絶える時、五感の中で最後に機能停止するのは聴覚なのだ。それは、心停止しても、脳が完全に死ぬまで生き続ける程である。
フリストは、粘質な音に違和感を覚えて、努めて自身を夢寐より掬いあげた。
未だ眠ろうとする体は、休息を求めている。だが耳の捉えた異常は、自身を襲うありえない事態を示唆しており、このまま眠っていれば取り返しのつかないことになるかもしれない。
夢の中でフリストはそう判断し、葦の海を掻き分けるようにして夢より這い出た。
同時に、触覚が意識へ雪崩れ込んだ。
まず、アンダースーツに守られている筈の胴体部の涼しさ。ついで、恥部を這いまわる温かいなにかの感触である。
「ヘ、ヘルゲ・・・・・・?」
瞳は、まだ焦点が定まらない。急速な目覚めによる不調である。体と脳を繋ぐ線がどこかで切れているのかと思うほど、体は自由を失っている。軽い金縛りと同じである。
一方、ヘルゲは全身の血が凍ったかと思われる戦慄に襲われていた。
(こ、殺される・・・・・・)
恐怖が全身を覆う。が、どこかで開き直ってもいる。
(どのみち、ファーヴニルに加担した時点で勘気は被っているのだ)
とも思うのだ。ならば死出の土産に、少しばかり良い思いをしても構わないではないか、とやけくそ気味に考えている。
が、ヘルゲの予想に反して、フリストからの反撃はなかった。
「・・・・・・?」
不思議に思って顔色を探るが、フリストの顔色からは困惑しか見て取れない。
(何故ヘルゲが、私を・・・・・・?)
間違いなく、フリストは困惑している。
一つには、何故ヘルゲが自身を裏切って槍を突き立てたのか。意識があの時点で途切れ、情報不足であるに加え、途切れてしまったために、あれが夢か現かの判断がつきかねている。
更に、フリストもやはり女である。自身を犯そうという無頼漢を見た時、多くの女性は一瞬茫然とするものだ。それは現実を現実として受け入れるには、あまりに悲惨な状況だからである。フリストの場合、それが弟子に当たる男なのだ。混乱は、極まっている。
終いに、フリストの脳に囁きかける声である。
「ヴァルキリー、その者を阻むな」
響きのあるいつもの声が、そう訴えていた。
ヴァルキリーというものは、基本的に盲目的である。だから決めてしまうと融通が利かず、頭が固く、意固地である。特に自身の頭に響く己が主の声には殊更に盲目的で、逆らうどころか疑問すら浮かぶまい。
だから、ヘルゲが自身を強姦しようとするこの状況を、声が邪魔するなと囁くなら、指一本も動かすつもりはない。
ヘルゲが戸惑っていると、そこは冷静で頭の回転も速いフリストである。全てを察して、目が据わってきた。
「ヘルゲ。するのなら早くなさい」
もたげた首を寝かす。目はもうヘルゲを見ず、夜空の瞬きを見ていた。
「へ・・・・・・?」
「わたくしを犯すのでしょう? ならさっさと済ませてしまいなさい。
我が主は阻むなと仰せられました。邪魔はしません。早く済ませて水を持ってきなさい。喉が渇きました」
この言葉が、怯えと良心の呵責を残していたヘルゲの、激情を煽った。
(この女は、いったい何様で・・・・・・!)
殺してやりたいとさえ、思った。
自身の純潔が奪われようというのに、ヘルゲのことなど歯牙にも掛けていない。貞操観念が弱いなどということはない。それはヘルゲがフリストとの付き合いで充分判っている。
つまり、フリストはヘルゲに犯されることなど、虫に刺されるほども気にしてはいないのだ。たとえ、盲目に進行する主の言葉があったにしても、ここまで無関心なのはそうとしか考えられない。
ヘルゲは、フリストの膣口に捻じ込んだ指を抜いた。
「? もう終わりましたか? ならさっさと水を。話はそれからです。
ああ、貴方の去就もその際に考えましょう。好みの刑場があるなら今のうちに言っておきなさい。望みの場所で首を刎ねてあげましょう」
ここで暴力に出なかったのは、やはりヘルゲは勇者の素質があるからであろう。
勇者は勇気を持つ以上に、正しい行いをしなければならない。いくら腹が立ったとはいえ、無抵抗の女を力で黙らせるなどということは、正しい筈がない。
ヘルゲはその怒りを抑え、犯すことで晴らすことにした。
まあ、暴力と強姦なら、たいした差はあるまいが。
(いや、既に俺は許しをもらった。許したのは他ならぬこの女だ。だからこれは、強姦ではない)
自身に言い聞かせ、身の内から溢れ出る激情を正当化し、腰を進めた。
意外なほどあっさり、充分な湿り気を帯びた膣口はヘルゲの逸物を迎え入
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