銀の仕業、という言葉がこの辺りにはある。
有名な人、話題になっていた人がある時急に姿を消す。それを指して、ああ銀にやられたのだ、と言ったりする、ジパングの神隠しと似たような使われ方をする言葉だ。
とはいえこれは古い慣用句であり、本当に銀という存在を信じている者は居ない。銀なんて存在、居るはずがない。
……だけど私は、この言葉に関する他の言い伝えも思い出さずにはいられなかった。
曰く――銀にやられた者は、もう二度とは帰ってこない。
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苦しんでいた。
銀の肉体を軋ませながら、金属が擦れるような音でゴーレムが叫ぶ。
「――――――!!!」
左半身、男の肉体が右半身に奪われた部位を取り戻していく。そして、それだけに留まらず、右半身へと侵食していく。
肉体の中心部は、左右の肉体によるせめぎ合いとなっていた。
「強い力を加えれば、より強い反発を招く事が有ります」
フォリーの背後で、酷く冷静にアランが告げる。
「だからこそ、あのゴーレムは時間を掛けていたとも言えるでしょう。とはいえ捕らえられていた人達の事を考えるとそのままにさせておく訳にもいかない。だけどあのゴーレムの事を見捨てたくもない」
酷く冷酷に、アランが告げる。
「欲張り過ぎましたね。能力以上の事を、望んでしまった。貴女では力不足だった」
ゴーレムが、触手を生やす。
無数の触手が、振り回される。
ただ暴れるだけのようなその行動は、周囲の壁や天井をひび割れさせた。
強固な保護魔法の掛けられたそれらは、魔王城の城壁にも匹敵する要塞である。
危険だった。
今のあのゴーレムは、危険極まりない怪物だった。
「さて、次はどうします?」
やはり冷静に、アランは告げた。
「全てを救いたいと言うのなら、まだようやく半分ですよ」
やはり簡単に、アランは告げた。
「一度の失敗で諦められるのでしたら、それでも別に、構いませんが」
――フォリーは、迷わなかった。
「ごめん!」
振り向きざまに、叫びざまに、アランに向かって飛び掛かる。
「ですから何をする気なのか先ず説明を――」
無視。というかそんな時間は無い。
フォリーは口元の布をずり下げると、そのまま大口を開けアランの首筋へとかぶり付いた。
――ゴーレムの、あの姿を見た瞬間、フォリーは次の準備をしていた。
残ったなけなしの魔力を、使い切るのに失敗した、使い切れていればあるいはこんな事にならなかったであろう魔力を掻き集めて、自分の口元を変化させる。
イメージするのはヴァンパイア。アランの血を舐めた時に思い付いた。足りない魔力を、これで補う――!
「痛い痛い、痛いです」
あ、痛み止めの事考えて無かった。マジでごめん。次に活かすから許して下さい。
とりあえず舌で舐めておきながら、急ぎ血液を吸い上げる。
血の味は好きではないが、しかし身体に染み渡る。癖になりそうな、この感覚。アランの精は、やはり良質なようであった。
いやもうぶっちゃけると、自分と相性が良いようであった。もうアレだ。ダメだこれは。癖になるというか、癖になった。
いっそ、このまま離したくない所なのだが――
「――――――!!!」
――そうも言っていられない。
背後から、敵意を感じる。触手を振り回していただけのゴーレムが、ようやく当たり散らす標的を見付けたのか。
……あるいは単に、目の前でイチャつかれた事に苛立ったのか。
ともあれ名残惜しくも牙を抜くと、フォリーは剣を抜きながら振り返った。
ただし自分の剣ではなく、アランの剣を。
「《偽・竜の吐息》!」
剣先から炎がほとばしる。
ドラゴンブレスを擬似的に再現した魔法だ。フォリーが好んで使う、広範囲への攻撃手段である。他者を巻き込んでしまう恐れのあった先程までとは違い、こういった戦法も今度は取れる。しかもアランの剣は魔法を増幅させる、いわゆる魔法使いの杖としての役割も有るという。結果、予想よりも遥かに強力な炎が触手を襲った。
――本調子の時と比べると、明らかに火力は落ちていたが。
フォリー自身の魔力が急場凌ぎの状態である。どうした所で無理なのは分かっていた。
それでも、やれるだけの事を、やるしかない。
「――――――!!!」
向かってくる触手の内、半数以上が焼け残っている。
それだけの数を、迎え撃つのは不可能だ。ましてや攻撃魔法を撃ち続けたままでは、満足に剣も振るえない。
それでも、フォリーは自分の剣を抜いた。まだだ。まだ、自分は、諦められない。
自分の事は、諦められる。愚図だ、無能だ、脳筋だ。姉妹の中の落ちこぼれだ。それで、別に、良しと出来る。
だけど、他人の事は諦められ
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