第一章第三節 黒の触手と銀の人形




「こんなん分かるかぁーっ!」

 思わず全力で叫んでしまう。
 ロープを張って井戸を下りた先、そこにあった隠し扉。
 ……いや、私は底の方に何かあるのかなって思ったのよ。そしたらアラン、井戸の真ん中やや上辺りで壁をつつーって、そしたら壁がすすーって。
 なんで! そんなの! 見て! 分かるのよ! おかしいでしょ!?

「此処を造ったのは余程慎重な質の魔物だったのでしょうね」

 そっちじゃねえ! いやそっちもだけど!
 ……まあ、とりあえず気を取り直して中を覗くと、巨大な螺旋階段がかなり下まで続いているようであった。壁や階段その物がほんのりと発光しており光源には困らないようになっている。いやまあ私、光源無くても割と平気なんだけどさ。

「……深くない?」

 これ、地上に建てたらめっちゃ巨大な塔になるぞ。

「それだけ危険な、あるいは重要な物が在る、または在った、もしくは在る事になる予定だった、そんな所でしょうか」

 まあそりゃそうなんだろうけど、相変わらず予断を許さない物言いだ。アランならもっと正確に予想出来てそうな気がするんだけど、それはさすがに気のせいだろうか。

「それで、どうします? 本当に進むんですか? この先はいい加減、引き返せるか微妙になってくると思いますが」

 この大きさの階段だと登り降りするだけでも時間が掛かる。その上実質一本道だ。もし何かから逃げなければならなくなった時、この地形は相当な負担になるだろう。
 ……まあそれは、普通に歩いて行けば、という事でもあるのだが。

「うーん……よし、近道をしよう!」

「近道?」

「アラン、ちょいこっち来て」

「はい」

「それでこう、ぎゅっと私に抱き付いて」

「……はい?」

 そこで戸惑うな。ええい面倒臭い。私は自分の方からアランに抱き付く。……細っ! めっちゃ細っ! これ私より細いぞ、ええいチクショウ肉を食え肉を! あとなんか右腕のとこだけゴツゴツしてる。何か仕込んであるな、油断のならない奴。

「あの、フォリーさん?」

「こういう時に言う言葉っていうと、やっぱりアレだよね」

「いえ、その前に何をする気なのか説明を」

 これだけ大きな螺旋階段になると、当然中央が吹き抜けている訳であって。

「私は飛べる!」

 アランを抱き締めたまま、中央の空洞に向かって飛び込む。
 そんな時でもアランは無表情のままであったが、不思議とその顔は呆れているかのように見えた。



 心中じゃないよ?

「ですから、事前に説明をですね」

 無表情で小言を言うアラン。
 いや、仕方がないのです。私はまあ、種族柄翼が有るので飛べるのだけど、それを耳飾りで誤魔化している都合上上手く説明が出来なかったのです。飛行魔法が使えるとでも言えば良かったのかもしれないけれど、それだとまんま嘘になっちゃうから嫌だったし……まあ、魔物が翼で飛ぶのも厳密には魔術に分類されるそうだから、ある意味嘘ではないかもだけど。そういう訳で、仕方がなかった訳なのです。別に、私がアランをドッキリさせたかったとか、そういう訳ではなかったのです。面倒だとは思ったけど。

「まあまあ。ほら、あっちに扉があるよ」

 落ちたというか下りたというか、まあ翼で軟着陸した先はちょっとした広間みたいな空間だった。ただ、壁や床がうっすらと光っている以外は、その扉と上への階段だけしか無い。あくまで通路の一環なのだろう。それがどれだけ続くのかは分からないが、とにかく先に進まなくては。

「全く。……ああ、居ますね」

 あっさりと、扉を見てアランが言った。

「…………居る?」

「人間じゃありませんね、この大きさは。ダークマター、とも違うようですが、クラーケンよりは近いでしょうか」

 言うまでもなく、私には扉しか見えない。酷く無機質な、銀色の四角い扉。飾り気の無い、単なる金属製の板だ。取っ手が無ければ扉とすら思わなかったかもしれない。

「巻き込まれているのが、ざっと二十人といった所ですか。まあこの場合、人という表現で良いのかは怪しいですが」

「ああもう! 分かるように言ってよ! 居るのね!? この先に! この扉の向こう側に!」

「いえ、厳密には……いや、そうですね。見て頂いた方が早いかもしれません」

 そう言ってアランは、扉の取っ手に左手を掛ける。

「周囲の物には触れないようにして下さい。姿隠しにも限度が有りますから」

 そして静かに、扉を開けた。
 ……意外な事に、と言うべきだろうか、次の部屋には誰も居なかった。
 居たのは、その次の部屋であった。

「なに、これ……」

 ――無数の、黒い触手が、蠢いている。
 壁の一面、その上半分がガラス張りになっており、隣の部屋の様子が見えた。
 広さはちょっ
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