謁見

最早目を瞑れども駆け抜ける事が出来る程に慣れ親しんだ森。また会えるかもしれない。そんな微かな希望が、疾走しながらも今までの楽しかった思い出が次々と湧き出させてくる。



ーー「リーメル、また獲物に対して必要以上に矢を浴びせて...どうせ上手く当てれず躍起になったんでしょ?」
「うるせぇなぁ、どうせ捌いて食うんだし段取りなんてどうでもいいだろ」
「だからこそよ。私達は命を頂くのだから、せめて苦しまずに殺してあげるっていうのが狩人としての礼儀なのよ。」
「はいはい、アリシアは優しすぎんだよ」ーー



ーー「リーメル!?これは...」
「ははっ、何も娯楽らしい娯楽がねー村だからな。せめてお前の誕生日くれぇは豪勢なモン食って宴にしようや!
そら、お前の好物、鹿肉のバター炒めにわざわざ護衛をつけて遠征してまで買ってきた、特注のケーキだ!」
「嬉しい...私のためにこんな...夢みたい...ありがとうリーメル!!」ーー



ーー「リーメル...私...村を出て嫁ぐ事になったの...」
「なっ...!?......はっ、お前みたいな腕っぷしのつえー女に惚れる奴がいるなんてな。お笑いってもんだぜ」
「反魔物領の貴族に一目惚れされちゃったの...結婚したらここに軍を設置して外部との交流を盛んにするって...村の為に...両親が...」
「...受けたのか、その話...」
「だって...私が出ていくだけで村が救われるならって...でも...
リーメル...やっぱりやだよぉ...私、リーメルと...」
「...っ!やめろ!!それ以上言うなっ!!」
「...でも...」
「...もう決まった事なんだろ。ここはさ、『親友』として、見送らせてくれよ」ーー



クソッ...クソッ...クソッ!!
あいつは、貴族と結婚して幸せな家庭を築いていく筈だったんだ。幸せに、なる筈だったんだ!!
なのにあのクソッタレのスライム共が全てをぐちゃぐちゃにしていきやがった!
俺がどうなろうとも、せめてあいつだけは助け出したい。あいつだけは救ってやるんだ!


猛るがままに暫く走った先に見えてきた。
俺達の...故郷だった村に。

決して大きくはない木造の建造物がいくつか点在している、本当に小さな村だ。
今や地面に薄い、まるで薄氷のようなスライム溜まりが地面を覆いそこからぬぅと突き出るような形で様々なスライムが男性との交尾に没頭している。

入り口付近にある小さな酒場の看板娘は球体状のスライムに跨がりながら酒場の主人に口で奉仕しているようだ。隣には主人の奥さんの容姿をした紫色のスライムが主人を覆うように全身に取り付いてしきりに唇を重ねている。

地獄だ...誰も彼も人間の尊厳を捨て獣のように貪っている...
これが...こんな...

「...リーメル様でございますか?」

突如入り口付近から従者の格好をしたスライムが薄く伸ばした地面のスライム溜まりからぬるりと出てきた。

「...ああ、そうだ」

ここで怒りに任せてぶった斬っても、恐らくレッドスライムの二の舞を演じるだけだろう。沸き立つ殺意の衝動をぐっと堪え受け答えに応じる。

「お待ちしておりました。中でアリシア様がお待ちです。ですが、その前に女王様との謁見を行ってください。」
「女王?お前らを統率しているトップに会いに行くってのか?」

上等だ。自らのボスを仇敵に晒すとはスライムも間抜けなもんだな。組み伏して再生が出来ない程細切れにしてやる。
それが罠の可能性があるかどうかなど微塵も考えずに従者スライムの言葉に従った。

「それでは、こちらへ...」

すると、地面を覆っていたスライムがすうっとモーゼの様に別れて一本の道を作っていく。彼女は脚を形成し独立...しているように見えて背中からストロー程あるチューブ状の粘液がスライム群に向けて延びているようだ。

進めど進めど左右から聞こえてくる淫らな声。女達や女型スライムはおろか男達も全員観念して楽しんでいる。
大して広くはない閉鎖的な村だ。殆どの人は顔馴染みであり友人であり家族のような人達だった。そんな人達が快楽に飲まれて腰を振る姿は見ていられない。

「ご心配なく、貴方も直に...フフ
#9829;」
「チッ...」

目を背けた俺に配慮したのか悪魔のような囁きを耳元で吹き込んでくる。今すぐにでも殴りかかりたい怒りを何とか静めながら村の中央である、井戸を取り囲む広場までたどり着いた。
ここでは普段は主婦の皆が一同に集まり夫に対する不満やのろけ話を繰り広げる井戸端会議をやっていたものだが、今ではそこかしこで夫に対する偏愛の宴を繰り広げている。

「あっはぁ
#9829;リーメル君だ
#9829;おかえりぃなひゃいいい
#9829;」
「きみもぉっ、スライムにっ、身
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