魔女と男07










 わしはおおっぴらに森の中を歩く。

「ぷっは。くぅ、生き返るのぉ!」

 あやつからせしめたミード入りの水筒を傾け、手にした棒切れで地面をがりがりと削りながら、上機嫌で歩いていた。
 姿隠しに音消しを同時発動させた隠行の術式。
 後は丸ごと撹乱の術で包んで、魔力探知をばらせば良し。
 王国の宮廷魔術師どもではわしの精細かつ大胆な術を破るなど出来んだろうよ。

 それでも完璧な守りというものなど存在しないので、探知された際には特別の護符で探知者を消し飛ばす。
 完璧な攻撃は、あらゆる防御に勝る。
 人生は攻めの一点買いが華である。

 面倒くさいのはあやつに押し付けておいたので、わしはこうしてのんびり仕事を片付ければよい。
 中々に便利だ。

 さて、そろそろコマした頃であろか?
 まだまごついておるやもしれんなぁ。
 あやつはとかく前戯が長いのが玉に瑕だ。
 最終的にはずぶりであろうに。
 ずぶり。 

「うっひぇひぇひぇひぇ」

 わしは陽気に笑いながら、くるりとその場で回る。
 止まっても尚世界はぐるぐると回る。
 よい塩梅だ。

「ほいっと」

 手に握る枝を地面に突き立てる。

「ほい、ほい」

 集めた地脈を寄せて固めて隠す。
 地脈を弄る程度ならたいそうな呪文など要らぬ。
 木の枝はたちまちにむくむくと根を張り若木へと成り代わった。

 木を隠すには森の中とはよう言うたものよ。

「さて。後三つもあれば良いか」

 六つではちと足らぬ。
 七つや八つでは型が崩れる。
 三の倍数なら具合良しだ。

 わしはそこらの木の幹を適当に叩き、落ちてきた枝をひょいと手に取る。

 さて、次の触媒を埋めに行くとするか。

 わしはがりがりと地面を削る。
 削って歩いて陽気に歌う。

「たらららららららら〜♪

 無乳 貧乳 微乳 美乳
 余乳 巨乳 魔乳 覇乳
 八組ぃ〜の乳を選ぶとしたら
 君ならどれが好きぃ〜♪

 巨乳!

 巨乳が好きだと申したかこの下種が!
 思ったとしても隠せ! 黙れ!
 理想と現実は著しく違うのだ! 夢でも見ておれド阿呆が!」

 やはり景気づけにはこの歌だ。
 こう、むくむくと世界を呪う気力という物が湧いて来る。
 何やらもう魔王も勇者もグーパンで殴り殺せそうな歌だというのに、何故かあやつはわしの教えた歌詞の通りに歌わぬ。
 あの欲張りめ。

 がりがりと地脈の流れを一筋描き加えつつ、ふと足を止めた。

「……」

 歌を止めしばし自らの胸を眺める。

「……これならば、うむ…貧乳くらいは…いや、ぷにぷに感をこう…積み立て増し増しで……うむ。
 いける、いけるぞ!」

 そういえば、貧乳の歌詞は何であったか?
 そう、確か――

「中途半端」

 ……ふむ。

「よし、目が合った瞬間お仕置きだな」

 残念であったなMBよ。
 それもこれもぬしがわしの魅力に気づかんからいかんのだ。
 と言うかわしを洗って欲情せんとはいかなる事か。
 魔女たるわしは、基本的に恨みつらみは忘れんのだ。

「最近は痛くした所で堪えておらんからなぁ……ここらで新しいお仕置きの術でも考えてみるか」

 がりがりと線を引きながら、さてどういった趣向のお仕置きにしてやるかと思考を巡らせた。



xxx  xxx



 悪寒が走った。

 ?

 何かとても嫌な予感がして、ぶるりと身体が震えた。

「……どうかしたの?」

「寒気がした」

 肩を擦りながら答えると、シーリスは少し怒ったような目をして俺を見た。

「それは、ふ、服を脱いでばかりしているからよ」

「思い当たる節はそれだな」

 後は魔女殿が理不尽な事を思いついたかどうか。
 邪悪に笑う魔女殿の顔を思い浮かべながら、そちらの方があり得そうだと思った。
 悪い予感は得てして当たるものだ。

「みだりにそういう真似をするのは、どうかなと思う」

「気をつける」

 確かにシーリスに無害を示す時には自ら脱いだが、村の中で裸になっていたのは脱ぐ暇がなかったからだ。
 その辺りの説明は省いて、耳を赤くしているシーリスに頷いた。

 俺はシーリスと共に森の中へと戻った。
 村の中で服を調達するつもりだったが、今回は見送った。
 どこもかしこも店終いの後で、気絶している者から拝借しようとしたらシーリスに止められた。
 道義的な問題(勿論相応の代金は置いていくつもりだったが)ではなく、匂いの問題であるらしい。

 シーリスは鉄の匂いが苦手だそうだった。
 森で育った彼女にとって人間の体臭に慣れていないらしく、一刻も早く村の中から出たい様子だった。

「服なら、森でも用意出来るから」

「そうか」

 シーリスの申し出を受ける事にして、目を剥き泡を吹いて気絶
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