ユニコーンさん俺だ! 結婚してくれ!!

 これは魔王の支配があまねく広がり、魔物と人間が一つの種族へと
完全に統合された少し未来のお話です。

「……もう一杯」
「マリア、いい加減にしな。いったい何杯飲んだと思ってるんだい?」
 とある繁華街の酒場に、朝も早いうちからグラスをぐいぐい傾けるユニコーンの姿があった。
 彼女の名はマリア。近頃の魔物にしては珍しくいい年齢こいていまだに独身かつ処女である。
「うるへーばーろー、酒くらい好きに飲ませろってんだ!」
「男を取られて荒れるのはわかるけど、朝っぱらから押しかけてくるんじゃないよ!
 あたしと旦那の飲む分が無くなっちまうだろうが!!」
 身体を壊しかねない勢いで酒瓶を空ける彼女を見かねたオーガの女将は、カウンターに
ちょっとした山脈を成す空き瓶を押しのけるようにしてマリアの首根っこを引っつかむや、
ゴミでも捨てるような気軽さで表へ放り出すと、春先とはいえいまだ冷たいバケツの水を
情け容赦なくぶっ掛ける。
「魔界熱に罹ってるみたいだし丁度いいだろ? さあこれで頭冷やしたら家帰って寝な」
 女将はさもめんどくさそうに言い捨てると、ジパング産まれの夫がアカオニの祖母から
暖簾分けされたという店の引き戸をぴしゃりと閉ざし、朝寝へとしゃれ込んだ。
 それにしてもいくら魔物が丈夫だからとはいえひどい仕打ちである。
ずぶ濡れのマリアは泣いた。
壁越しにも聞こえてくる女将夫婦のケダモノじみた幸せ一杯な嬌声と、今の自分の境遇を
比べれば比べるほど惨めになってしまう。
 ────それにしても、ユニコーンにとって生きづらい時代になったものね。
 死んだ魚のようにどろりと濁った瞳で、滴る水滴をぬぐおうともせずにポクポクと
その場を後にする彼女は誰に聞かせるでもなくつぶやいた。
 本来ユニコーンは相手を見つけるまで処女を守り通し、童貞の男しか相手にしない魔物娘だ。
魔王の支配が完全ではなく、魔物娘から男が生まれなかった頃ならまだよかった。
ところが種族が統一され、性に奔放な魔物娘に兄弟が生まれるようになって状況は一変した。
 元が近親相姦の禁忌も無く平気で父親とすら交わろうとする魔物娘だ。それが頼もしい兄や
可愛い弟を得ればどうなるか。もちろん全部とは言えないが、実の兄に恋慕の情を抱いたり、
将来の嫁のために弟を鍛えてやろうと童貞を奪い、つい勢いで本気になってしまう姉妹が続出したのだ。
 隣の家には仲良しな幼馴染だって居る。もっと外へ目を向ければ近所のきれいなお姉さんや、学校の美人先生がてぐすね引いて待ち構えている。
 かくしてこの世界で童貞は絶滅危惧種にも匹敵する貴重な存在になってしまったのだ。
「どちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 彼女は叫んだ。やっと見つけた童貞坊やを目の前で姉に掻っ攫われた怒りと悲しみを
吐き出してしまうかのように。
 彼女は走った。道行くカップルを押しのけ掻き分け、砕け散った恋を振り払うかのように。
「────おおおおおおおああああああああああああああああああああああああ!?」
 ────そして勢いに任せて町はずれの小山へ駆け上った後、うっかり崖から転落して
急斜面を転がり落ち、ふもとの草原へ叩きつけられた。特撮番組の怪人もかくやという
見事な落ちっぷりである。これで最後に爆発すれば完璧だ。
 全身打撲と骨折擦り傷その他もろもろの負傷で半死半生の体(てい)を成すぼろぼろのマリア
は、最後の力を振り絞ってユニコーン十八番の強力無比な治癒魔法を唱えると、
無茶がたたって悪化した魔界熱の症状もあり、糸の切れた人形のようにぷっつりと意識を手放した。

□□□□

 恵みの太陽が天頂へ昇り燦燦とその日差しを降り注がせる頃、清々しい風に吹かれて
ざわめく草原に立っていた男は、前方に一人の美女が力なく横たわっているのを見て取った。
 普段なら心地好く頬を撫でる春の息吹に靡ききらめくだろう真珠色の髪は、
今や紅潮した肌に浮き出る汗に張り付き、世の男たちを魅了してやまない
そのメロンのように豊満な乳房は、苦しげな呼吸とともに上下している。
 その髪の色が物語るとおり日本人離れした外見の彼女は、女優やアイドルにも
そうは居ないほどのすこぶるつきの美女である。苦しげに臥せってさえ居なければ道行く男が
軒並み振り返ることだろう。
 だが少し待って欲しい。確かに輝くような美貌や大きなおっぱいは大事なポイントだが、
注目すべきなのはそこではない。
 彼女の短い毛に覆われた耳は馬のように長く伸びており、額からはドリルのように捩れた
一本の角がそそり立っている。おまけに下半身は御伽噺の王子様が跨っていたら
さぞ映えるだろうという毛並みのいい白馬そのものなのだ。
 そう、魔物娘版ユニコーンである。
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33