前編

 強い日差しと真っ白で綺麗な砂浜。青い海と海鳥の鳴き声だけが聞こえる開放的な場所。
 広くはないけれど、五、六人ぐらいなら十分に遊べるくらい。こんな小さなビーチはあまり人に知られていないのか、よくここでシースライムちゃんとかとお話したり遊んだりしている。
 後は、たまにセイレーンちゃんがここでお歌の練習してたりもするかな。マーメイドちゃんが居たら一緒に練習したりしていて、聞いているととても心が洗われる。まぁ、そこに魔力が込められるとちょっとムラムラってしちゃうんだけどね♪
 ともかくそのビーチはあたしのお気に入り。海の中で泳ぐのもいいけれど、こうして地上に出ないと会えないんだもの。
 もちろんそれはあたしだけの王子様。
 航海中の船員さんとの出会いもいいかなって思うのだけれど、やっぱり海の中へ飛び込むのは勇気がいるみたいだし、事故で沈んじゃった人を待つのもなんだか気が遠くなりそうだし。それならばって事でお気に入りのビーチにちょくちょく向かっているのだけれど……小さなビーチだからかな? やっぱり人が現れるのは滅多にない。
 でも海の中で待つよりも確率は高いと思うの。人間は海の中では生まれないし魔力がないと暮らせない。本来は地上で生きる種族だもの。
 その地上で生きる種族である人間と、海の中で生きる種族であるあたしのようなメロウが出会って、そして仲良くなって恋に落ちるってとっても素敵な事でしょ? そういうのにあたしは憧れているの。
 ……今日もあたしはお気に入りのビーチで王子様が現れるのを待つ。
 岩場近くで海と空を眺めながら、波の音と海鳥の鳴き声に耳を澄ます。

 「いい天気だわ……」

 日差しが強いけれど、むしろそれが心地いい。あたしの魔力で日に焼ける事はないし鱗が枯れる事もない。それに暑くなっちゃったら海へ潜ればいいし。
 とても気ままな生活だと思う。のんびりで、おだやかで。そんな生活もあたしは気に入っている。願わくばその生活に王子様が居たらいいな、なんて思うけど。
 そう言えば人間はあたし達のような気ままな生活を送ってはいないみたい。セイレーンちゃんから聞いたけど、人間は朝に起きて働いて、汗水を流してお金を稼いで暮らすらしい。そのお金で食べ物や服などを買うんだとか。それを初めて聞いた時は、気ままに海で生活していたあたしがなんだか怠け者みたいだなって思った。それと同時に海の中で生活すればいいのに、とも思った。魚も海草も豊富だし働かなくたってご飯を探すだけで後はのんびりすればいい。
 しかし人間は海の中で呼吸が出来ない。呼吸をするにはあたし達魔物が魔力を与えないといけないの。だから海の中で人間を見かけたとしても、それは誰かの夫だったり恋人だったりする。
 だから独身の男の人と出会う為に自ら動かなきゃいけない。……あれ、これってなんだか人間と似ている気がする。となると人間と魔物って外見は違っても共通している所もあるのね。

 「――――」
 「ん?」

 まだ見ぬ王子様が汗水にまみれて働いているのを想像……いえ、妄想してちょっと欲情しそうになった時に何か、声が聞こえた。
 海鳥じゃない。だとすると人間?
 わっ、もしかしてもしかすると待ちに待った王子様登場!?
 きゃー♪
 どんな人だろっ、どんな人だろっ。

 「――――だって」
 「――――に?」

 …………あれ。
 な、なんだか一人じゃないみたい。
 しかも、男の人だけじゃなくって女の人の声も聞こえているような……。
 だんだん声は近づいてくる。
 あたしは岩場に隠れて様子を伺ってみる事にした。

 「――ほら、誰も居ないよ」
 「本当だ。人も魔物もいないわ」

 人間同士……。
 男と女がお気に入りのビーチにやってきた。軽い荷物を持って。
 ちょっと残念。これで男の人しかいなかったら待望の王子様だったのになぁ。
 って、ちょ……っ。男の人が女性を抱きしめて……。

 「な? ここなら誰もいない。いいだろ?」
 「んぅ……。せっかちっ」

 も、もも、もしかしてこの二人……っ。
 女性もなんかまんざらでもなさそうなんですけどっ。
 あっ、女性の方が顔を近づけて…………。

 「んっ」
 「…………♪」

 きゃ―――――っ☆
 ちゅーしてるっ、ちゅーしちゃってるっ! あの二人、やっぱり恋人同士なんだわっ。
 それで多分男性がこの人気のないビーチを見つけて、相手の女性を連れてここで、こんなお日様が高いのに、え、え、えっちする気なんだ……っ!
 どうしよ、どうしよっ。このまま見ていたらあの二人がえっち始めちゃう。覗き見しているのがバレちゃったら二人の盛り上がった雰囲気も冷めちゃうよね……。
 で、でも。
 人間同士のえっちがどういうのなのかを、知りたいな。
 いいよね。いい
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