「主よ、少女の迷える魂をどうかお救い給え……」
日の光が西から差し込んでいる夕方前。俺は男の祈りの言葉を聞きながらせっせとスコップで穴を掘っていた。喪に服した者や泣きながら死を悲しむ者も大勢居た。穴を掘る俺と本を音読しながら祈りの言葉を捧げている同僚のカイルはただ何も考えず、受けた依頼を遂行するだけだ。
「……少女の招き給える主は少女を受け取り、天使は天国に少女を導き給わん事を……」
今も黒い棺桶で眠っている少女はまだ若かった。何の罪もなく、ただ少女は不幸な目に遭っただけなのだ。
出かけると言って出て行った少女の帰りが遅い事に心配した両親は捜索の依頼を出し、街の警備などをやっているゴブリンたちによって捜索された。そして後に、崖下に少女の元気な姿とはかけ離れた姿で発見されたという。
他殺の可能性も考えられたが街中に聞き込みをしても少女の消えた日に崖近くへ行った者は居らず、事故死と断定された。
まだ若いと言うのに、これから先どんな未来が待っているかわからない可能性が消えてしまった事。少女の先に待っていたかもしれない幸せが消えてしまった。
「……主よ、永遠の安息を少女に与え、絶えざる光を少女の上に照らし給え……」
かつてこの街がまだ老人達しか居らずいずれ死に行く村だった頃、村唯一の薬屋である男が独自に作った薬を輸出して村を発展させたという。道を行く商人をゴブリンが悉く襲い、いつの間にか村にルートが出来上がっていたそうだ。商人が行き来する村へと変わった村は周囲にある資源などを使用し発展していった。
何よりも最大の特徴は人間と魔物たちが共存している所であろう。
それは村唯一の薬屋が娶ったのがホブゴブリンなのである。そして後にわかったのだが商人を襲っていたゴブリンがそのホブゴブリンの部下であった事。老人しか居なかった村は魔物の手によって発展していったと言っても過言ではない。
噂が噂を呼び、そして時は流れ今に至る。
「……主よ、世を去りたるこの霊魂を主の御手に委せ奉る……」
このような例はあまりないのか、ある時教会の連中がやってきたのだ。悪しき魔物と共存する罪深き人間を粛清するだとか何とか。
しかしその連中もある者によって追い払われた。
その時居合わせた者曰く、晴天だったというのに空が一瞬暗くなったのだという。そして空を見ればそこには蒼穹の竜が居たそうだ。
そして教会の連中へ向けられたたった一度だけの咆哮で逃げていったらしい。それはそうだ。ドラゴンが相手なんて人間などちっぽけなもの。
そこで話は終わり、という訳ではない。なんと薬屋の妻であるホブゴブリンと蒼穹のドラゴンは友人関係にあったのだ。
こうして蒼穹のドラゴンは我が街の守り神と同時に王として君臨する事となった。勿論そのドラゴンには夫が居た。
なんとも、偶然に偶然が重なればこんなにも変わっていくのかと思ったものだ。
ちなみに、この話は俺が生まれたばかりの話らしい。両夫婦とも健在であり、夫の年齢もそれなりなのだがどう見ても二十代にしか見えない。本当に四十代なのかと実際に言ってしまった事もある。
「……我らの主によりて願い奉る。アーメン」
……っと。祈りの言葉が終わったか。
考え事をしながらせっせこと穴を掘っていたがなんとか間に合った。
いよいよ埋葬か。哀れではあるがこれも仕事だ。せめて安らかに……。
泣き叫び、我が娘を見送る親の顔はいつ見ても、見慣れるものではない。
遺族が悲しみの中帰り、俺も一仕事を終えて一服中。この仕事を始めてからは必ずこうしている。 俺の仕事は亡くなった人間の埋葬。葬儀屋と言ってもいい。先ほどの祈りの言葉は古くから亡くなった者、そして神へ語りかけてきた言葉だが、決して俺たちは教会の人間ではない。どんな時代であれ、死者への祈りの言葉は共通なのだ。ジパングではまた異なるらしいが。
俺の仕事はいつも亡くなった者が入る棺桶を埋める穴掘りだ。本を読みながら長々と祈りの言葉を捧げる仕事はどうもこう、性に合わない。それに力仕事が出来る奴も少ない。じっと動かずに言葉を捧げるよりも、俺は身体を動かす方が好きだしそれでいい。
他に仕事がなかった訳じゃない。ただまぁ……他の仕事よりも給金は高かったし、亡くなった者へしてやれる最後の大事な行事を請け負うというのも悪くはないと思ったからだ。
「すぅ…………ふぅー……」
だが、いつも俺は仕事が終わるとこうして亡くなった者の前で煙草を吸っている。
センチメンタルになっているのではない。何故かはわからない。
もしかしたら俺は偽善者なのかもしれない。人間が死ぬのは悲しい事だ。だがそれは家族や知人がするべき事であり、依頼された俺たちはその必要はない。ただ黙々
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