温かいものに包まれて起きる朝がこんなにも気持ちのいいものだとは知らなかった。
眠っている間も俺に抱きついて離れないホブゴブリンのメルは、朝でもその身体は温かくて。起きかけた俺の意識がまた落ちて二度寝をしてしまいそうになる。
そろそろ起きなくてはいけないのだが、このまま温かさに包まれて眠ってしまいたい欲求がそれを消そうとしている。
「すぅ……はぁ……」
ゆっくりと深呼吸して瞼を開く。
目の前には気持ちよさそうに口元を緩ませて、よだれを垂らしている可愛いメルの表情があった。
なんとまぁ、幸せそうな寝顔なのだろう。
「可愛いやつめ」
「……えへ」
「ッ!?」
ま、まさか既に起きていたのか?
寝惚けた状態で思わず呟いたこともしっかり聞こえたかもしれない。そう思うと急に恥ずかしくなってきた。
「…………くぅ」
「寝言……?」
「すぅ……すぅ……」
「おーい、メルー」
「んに?」
ぷにぷになほっぺを摘んでみた。柔らかいほっぺが伸びて、メルの顔がなんだか面白い事に。
するとメルは目を覚まして、じっと俺を見てから、
「おはひょうほはいはふ〜」
と挨拶してきた。
やっぱり寝言か。
痛くしないようにほっぺを離した。
「むぅ。あさからいたずらですかぁ?」
「ああいや、そこに柔らかそうなほっぺがあったから」
頬を摘まれた事にちょっとご機嫌斜めなメル。ぷくーっと膨れた顔がまた可愛い。
…………。
なんか俺、どんどんメルに惹かれてる気がする。面と向かって言うのはまだ恥ずかしいが、可愛いと思う事が増えた気がする。
寝顔が可愛いなぁとか、よだれ垂らしてて可愛いなぁとか、寝てても甘えん坊で可愛いなぁとか。
事実だから仕方ないな。そういう事にしておく。
「いたずらっこさんにはこうですぅー」
「むがが」
「むにぃー」
「わふはっはっへ」
「むにぃぃぃー」
悪かったと言ったのにも関わらずメルは頬を摘むのをやめなかった。やられたらやられっぱなしなのは悔しいのでこっちもやり返す。もはやどちらが始めたなど関係ない。折れるまでの勝負だ。
「ほのー」
「ふにゃぁぁ、ひるほひゃんまれふるらんへぇ」
「ほの、ほのー」
「ひゃうぅぅー」
……と、ここで俺の脳が急に冷静に戻った。朝から一体何をしているんだ俺たちは。
そう思ったが最後。今メルとほっぺの摘みあいっこをしているのが面白くなって吹きだした。
「ぷっ」
「ほひ?」
「あはははっ。降参降参。俺の負けだ」
「わーい♪」
突然始まった謎の勝負に勝った事が嬉しいのか、メルはにへっと笑った。
やはりゴブリンはゴブリンなのか、メルは基本的に子供のような考えの持ち主だ。どんな事でも勝ったら嬉しい、と。
「そろそろ起きようか」
「はいー」
「今日も薬草を採りに行くんだが、メルも来るか?」
薬草を採るのは日課だ。毎日同じ森へ行き、使えそうな薬草を見つければ採取して、美味そうな木の実があればそれも採る。種が薬品に使える場合もあるので一石二鳥だ。
その日課に、家にメルを置いて行くのも可哀相だなと思ったので誘ってみたのだが……。
「〜〜〜〜〜っ♪」
ものすんごくいい笑顔になりました。瞳がキラキラしている、とはこの事だろうか。
「ぜったいにいきますぅーっ♪」
元気よく言われるとこっちまで嬉しくなる。
彼女の頭を撫でた。
「そうか、じゃあ一緒に行こうな。サンドイッチを作って昼はそこで食べよう」
「わぁーいっ」
こんなにも喜ぶ姿は、まさしく子供そのものなのだが。
「おっでかっけおっでかっけー♪」
飛び跳ねてその殺人級おっぱいがぶるんぶるん揺れ、チューブトップからこぼれそうだ。
それを見ていたら昨日の悪戯のしあいっこでくた、となっていた我が息子が目覚めて大変な事になった。幸いメルには気付かれなかったが、恥ずかしくなった。
本人にその自覚はなくても、胸は自己主張をやめることなどない。
無邪気なのも、罪だよなぁ……。
シルドさんといっしょにおでかけすることになったの。
それだけでもあたしはうれしかったけど、それだけじゃなくて。
きのうできなかった、シルドさんのおしごとのおてつだいができるのがうれしいのっ。
シルドさんのおしごとはなんだかむずかしそうだけど、これからちょっとずつ覚えていけばいつかはいっしょにおしごとできるよね?
だからきょうはそのだいいっぽ。
おひるはそとで食べるのもたのしみー。おいしいサンドイッチつくろうっと。
あたし、がんばっちゃうよっ。
だから、ごほうびになでなでしてほしいなぁー。
二人で作ったサンドイッチをバスケットに詰めて
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