前編


 「すすむーすすむーばしゃはすすむよー♪」

 あたしが作ったオリジナルのうたを歌いながら、いつもの森を進む。
 右手にはいつものこんぼうと左手には小さな枝。その枝で木をてちてち叩いてはおさんぽを楽しんでいた。何も考えずに気ままで楽しく。それがあたしのいつものおさんぽ。
 今日もいい天気でぽかぽか。それだけであたしは楽しくなってきちゃう。団員のみんなはいまごろお昼寝してるはず。みんなといっしょにいたずらするのは楽しいし、道を通りかかったしょうにんさんをみんなで囲んでからこんぼうでなぐっちゃうぞーって言えば食べ物とかぜんぶおいていってにげちゃう。いつもあたしの持ってるこんぼうを見てすたこらさっさ。なんでだろ?でもおいしい食べ物が食べられるからいいや。
 
 「のをこえーやまこえー♪ いつまでもばしゃはすすむよー♪」

 じつは、お昼のおさんぽはみんなにはないしょなの。みんなでどこかへおでかけするのも楽しいけれど、こうやって歌いながらきままにおさんぽするのも楽しいの。おいしそうな木の実があったらぴょんってとんで食べたり。
 
 「んゅ?」

 きいろのちょうちょさんがあたしの前を通っていった。
 どこにいくんだろう?
 気になっちゃったからちょうちょさんの後をおいかけてみよう。

 「ちょうちょさんどこいくのー?」

 あたしの声もなんのその。きいろのちょうちょさんはぱたぱた飛びながらじゅうおうむじん(むずかしいことばも知ってるんだよっ)に飛びまわる。
 
 「まって〜」

 来たことないばしょまで来ちゃったことも気づかないであたしはちょうちょさんの後をおいかける。
 ずっとおいかけっこしていたら、ちょうちょさんはつかれちゃったみたい。大きな木から出てるちゃいろのもじゃもじゃに止まった。

 「んー?」

 なんだろうこのもじゃもじゃ。
 あたしも近づいてみると、そこにはにんげんさんがいた。
 でもにんげんさんはにげない。
 よーく見たら、にんげんさんはねちゃってるみたい。きもちよさそうな顔でねてる。
 こんなにあったかいおひさまがあるんだもん。ねむたくなっちゃうのもしょうがないよね。
 あたしもにんげんさんのとなりにすわってみた。ちょうどあたしとにんげんさんで並べるくらいの太さの木だったからなんだかうれしい。あたしにおいかけられてたちょうちょさんもねむたくなっちゃったのかな?あたしが近づいてもにげない。
 
 「ふぁぁぁ……」

 にんげんさんのとなりにいたらなんだかあたしもねむくなってきちゃった。

 「えへへ……ぴとっ」

 にんげんさんのうでにぎゅってして、あたしもねることにした。
 おやすみなさーい。



 ……やべ、寝ちまった。
 昼食休憩に入って、日向の当たる丁度いい大木があったもんだからそこに腰掛けて飯を食って、それから日向ぼっこしていたらこの有様だ。まぁ誰にも怒られることはないだろうが。
 しがないただの薬剤師な俺はこうして一人、薬草になるものや木の実を求めて近くの森へとやってきた、というわけである。小さな村でひっそりとやらさせてもらっているからさほど忙しくはない。それになりたいからなっただけで、試験だとかそういうのは全く受けていない。無免許薬剤師である。
 それでも需要はあるらしく、それなりに村の人々にはご好評を頂いている。周りにはじいさんばあさんぐらいしかいないから作るもんはいつも同じだから楽な仕事ではある。
 今日も今日とて腰痛などの痛みに効く薬草を採りに来たのだ。うむ。我ながら見事な説明文だ。

 「……ぁふ」

 なんというか、この暖かな日差しは罪だ。いい具合に腹が満たされてこの日差しのコンボは寝ろという天啓と受け取らざるを得ない。太陽を見上げればまだそれほど時間は経過していないようだ。寝惚け眼でぼさぼさの頭を掻くと、突然黄色の蝶が目の前にやってきた。

 「んん?」

 上から?
 もしかして俺の髪に止まっていたのか?

 「おう、驚かせて悪いね」

 気にするなとでも言うかのように蝶は俺の前で円を描くように飛び、そのまま何処かへ行ってしまった。
 なんともまったりな午後だ。じいさんばあさんののんびり症がうつっちまったかな。

 「…………?」

 ここでやっと、俺の左腕に違和感がある事に気がついた。それはまるで日向のように温かく、パンの生地のように柔らかい。
 その正体を確かめると、そこには……。

 「すぅ……すぅ……」
 「…………」

 ゴブリンだ。
 頭の角、そして横においてあるでかい棍棒。
 間違いなくゴブリンだ。
 そのゴブリンがメロンのような豊満すぎるおっぱいを俺の腕に押し付けているように抱きついて寝ている。
 ん?
 このゴブリン、他のゴブリンと決定的に違う何かがある。

 「…
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