メドゥーサの魔力により、玲人の身体が見る見るうちに石化していく。そして瞬きもしないうちに指先まで到達し、玲人の石像が完成した。
目の前で玲人の石化を見ているしか出来なかった菜々乃は、まるで彼女も石化してしまったかのように動きが止まっている。好意を抱いている相手が目の前で石化していく様を見せられては、無理もない事だ。それに気付いた後ではもう遅いのだ。何も出来ず、無力さを呪う事しかできない。
玲人を石化させた紗枝子は、不敵な笑みを浮かべて勝ち誇る。髪の蛇たちも菜々乃に向けて威嚇をしている。
「朝からお兄ちゃんといちゃいちゃしようだなんて、させないからね!」
「…………」
元々玲人と紗枝子の部屋は隣同士だ。防音設備が基本として備えられている現代の住宅でも、多少の物音は聞こえてくるもの。
メドゥーサとなった紗枝子は居てもたっても居られずに、乱入したのである。
「それに、私は前からお兄ちゃんの事が好きだったんだもん。あなたなんかに取られてたまるもんか!」
「…………」
今まで内に秘めてきた玲人への気持ちは、妹と言う立場から伝えてはいけない禁忌であり、誰にも相談する事無くそのまま生きていくつもりだった。
しかし、今になり兄の玲人に近づく魔物娘が居た。
「お兄ちゃんに近づくお邪魔虫は、私が取り除く!」
「…………」
それだけで、胸の奥が酷く痛んだ。突然、涙が溢れた。そして、兄に近づく菜々乃がとても羨ましくて妬ましかった。
血が繋がっているから恋愛は出来ない。
血が繋がっているから恋愛は許されない。
血が繋がっているから恋愛は…………。
そんなもの、知った事ではない。世の中がなんだ。世間体がなんだ。人の目を気にするよりも、この胸に秘めた恋心の方がよっぽど大事なのだ。
半魔人間だから躊躇いが生じる。ならば、半分残った人間を捨ててしまえばいい。そうすれば、もう憂うこともないはずだから。
ようやく決意した紗枝子は、友人のメドゥーサの元へと向かい、紗枝子の中に残っていた人間の部分を魔物で全て上書きしたのだ。
こうして、紗枝子の身体はメドゥーサへと変化した。本来ならば半魔人間の女性は母親と同じ魔物娘へ変わる可能性が高い。しかし、別の魔物娘の魔力が体内へと入れば、その魔物娘へと変貌を遂げる。
「危なかったわ。お兄ちゃんを石化しなかったら、どうなっていたか。きっと、あんたの毒に冒されていたのでしょうね」
「…………」
「でも、残念。お兄ちゃんは石化しちゃったから、毒どころか顎肢で噛み付く事すら出来ない筈よ」
「…………」
――ああ、何て気持ちがいい。
半魔人間だった頃の悩みがどれだけちっぽけで些細なものだったのかを実感する。恋した相手が兄だからなんだというのか。血が繋がっていても玲人は男。そして紗枝子は女。男と女ならば、交わってしまえば全て一緒。兄と妹でもセックスは可能なのだ。魔物娘だから、生まれる子供に障害など起こり得るはずがない。
お兄ちゃんと私は幸せになれる。確固たる自信は揺ぎ無く。魔物娘になる事で、ずっと秘めていた想いをこうして堂々と言えるという開放感に酔い、気分が高揚していた紗枝子は慢心と油断で気付いていなかった。
「何とか言ってみたらどう? お兄ちゃんを毒牙にかけられなくて悔しいですって泣いてみなさいよ」
「…………」
何故、大百足は怪物≠ニ呼ばれたのかを。
ジパングや世界中に住む魔物娘と同じな筈なのに、怪物≠ニ呼ばれる起因は、一体何か?
「さっきから黙って――――」
「うあああぁぁぁぁあああぁあぁぁぁあああぁぁぁああああぁぁぁぁぁあぁあぁぁッ!!!」
一つ、大百足には猛毒がある。それは余りにも強力すぎて、並の人間がまともに毒に冒されてしまえば、一晩どころか一日、二日は快感が全身を駆け巡る。思考は全て真っ白へと変わり、目の前の雌蟲に精を搾り取られ続けるだけ。
そしてもう一つ。
「な、あ、あんたは!?」
「邪魔を、するなァァァァァァッ!!」
獲物と決めた男に対して異常すぎる程に執着する。それは男を自分だけのものにする為であり、他の女に奪われない為である。
普段は大人しく、気弱な菜々乃も立派な大百足の魔物娘だ。
恋心を抱いている男性が、目の前で石化してしまったその光景は、大百足としての本質を呼び起こすのに十分だったのだ。獲物を石へと変えた敵を睨みつけ、牙を剥く。メドゥーサの魔眼にも屈する事はない。それはお互いの纏っている魔力の差もあったかもしれないが、何せ現在菜々乃は激昂している。激昂によって膨れ上がった魔力は石化の魔眼の力をいとも簡単に弾き飛ばすのだ。
激昂した菜々乃は唸るように、恨み言のように語る。
「絶対に、絶対に、絶対に渡
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