アヌビスと言えば、真面目でマメで、統率する側としてその頭脳を駆使するのを得意とするのが一般的だ。その姿は社会でもそうだし、学校でもそれは遺憾なく発揮している。
クラスのまとめ役としてもそうだし、生徒会長としても活躍している、アヌビスのエルダ・アシュラフ。彼女のぴんと縦に立っている耳、ふさふさの尻尾、そして大きな肉球と愛らしい容姿なのだが、まさにアヌビスらしいアヌビス≠ナ、俺――アイン・ジャバードはいつも彼女に叱られている。彼女曰く『クラス、いや全校生徒一の問題児』らしい。
確かによく遅刻ギリギリで登校するし、レポートの提出もそうだ。サボっていないだけマシだろ、と思うのだが、クラスをまとめて生徒会長として教師からも信頼されている立場からなのか、毎回そういう事に関してはお小言をありがたく頂いている。
俺としてはそれが普通なのだが、こんな性格でよかったな、と思うのもある。何故なら、みんなのまとめ役、エルダ・アシュラフと話す機会が恐らくは一番俺が多いだろうから。つまりそれは彼女が俺の事を考える時間が少なからずあるわけで、俺としても彼女と話していると楽しくてしょうがない。
そう、俺はエルダ・アシュラフに恋をしているのだ。
なんと言っても美人だし、笑うと可愛い。特にそのウルフ種の特徴である尻尾と肉球がもうたまらん。モフモフしたい。モフってモフってモフりまくりたいのである。……そんな事を言ったらどんな呪術をやられるかわかったものではないが。
ともかく、俺はそんなエルダの事が好きになってしまい、わざと遅刻してみたり彼女に怒られるような事をやらかしたりと、全く持ってガキみたいな事ばかりだった。おかげで、彼女が俺に向ける顔と言えば怒った顔ばかりだった。
それはそれで面白いからいいのだが、日々積もっていく彼女への想いは、もう限界へと達していた。
だから俺は今日……。彼女に告白をするのだ。
彼女の机の中にちょっとしたメッセージを書いた紙を忍ばせて、放課後になった後校舎裏で待機。
我ながらなんとベタな……と思ったが、最適な場所が思いつかなかったのだ。リャナンシーの漫画家が描いた恋愛エロ漫画は俺のバイブルなのだ。エロいけど女の子の魔物娘が超可愛い。性格も初心だし、男の心をよくわかっているなぁなんて思ったもんだ。髪も綺麗で、
「先に待っているとは、お前らしからぬ行動だな」
そうそう、エルダみたいに綺麗な黒髪で……ってやべ、もう来ちまった。告白の言葉とか考えてねぇよおい。
「?」
呼び出した俺が黙っている事に、エルダは首をかしげた。やべー可愛い。こういう頑固な女が見せる可愛い一面とかそういうのに弱いんだよ。
「たまにゃ俺だってやる時はやるのさ」
「……はぁ。そのやる気、いつも勉学に向けて欲しいものだ」
呆れられてしまった。すいませんね、いつも不真面目で。
「……そ、そうじゃなくて。今日は俺、エルダに話があるんだ」
「話? そうか。だが話なら教室でも――」
「人に見られたくないんだよ、察してくれよ」
「――――そ、そうか。そう、なのか……」
……あれ? なんか、妙に尻尾が揺れてね? それに察してくれたのか、妙に顔が赤い……ような。お、おいおい。これはマジでひょっとするとひょっとしちまうのか。
「あのーその、だな。んーと……」
「あぁ」
「なんて言えばいいんだ、その、うん……」
「あ、あぁ」
どうしよう。どうやって告白したらいいんだよ。まさか、エロ漫画みたいにがばーっと抱きしめてお前が好きだ、抱かせてくれ! ってやれと? 出来る訳無いだろ、常識的に考えて。つーかエルダにしたら思いっきり殴られそうだな。
「いや、言いたい事はあるんだぞ? ただ、その……な?」
「そ、そうか……」
ああ、口を開いても言い訳ばかり出てくる。はっきりと好きだと言えばいいのに、その一言を伝えるだけで相当な勇気を振り絞らなけりゃならない。だが、もたもたしていたら言えなくなりそうだ。
しかもこの後何か予定があるのか、ちらっと懐中時計を見ているし。そういえば、アヌビスというのは一日の予定を分単位で決めているらしいな……。
「す……、す……、あの、うん」
「す……なんだ?」
「えと、俺は……お、俺は」
「う、うん」
俺は、お前の事が好きなんだ。
脳内では言えても口に……出せない。
「え、え、エルダ……が」
「わ、私……が?」
うお、尻尾がまた揺れてる。本人は気付いていないのか、かなり揺れている。もう告白とかいいからじっと見ていたい。
「す」
「す?」
く、そんな、そんな綺麗な瞳で俺を……っ、俺を見ないでくれ! 可愛いけど! 可愛いんだけど!
「す、す……す」
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