ある日の朝、目覚めたらベッドのすぐそばに見知らぬ宝箱が置いてあった。
まず目の前にある問題について対処、または対策をせずに、先に自分の意識をはっきりと覚醒させる必要がある。冷水で顔をさっぱりさせてから、熱したフライパンでベーコンをカリカリになるまで焼いた後に卵を一つ落としてから皿に盛り、切り分けたパンとホルスタウロス印の牛乳を用意して、簡単で一人暮らしの男らしい朝食を完成させて、椅子に座った。
まず塩コショウの入った瓶を振ってベーコンエッグにちょっとした味付け。フォークで食べやすいサイズに切り分けて、一口。うむ、丁度よい半熟具合で我ながら上出来だ。……そら、独り身だったから自炊の技術は無駄に向上するし、手際も良くなる訳で。しかし毎日自分が作った料理を口にするというのも寂しいのは否めない。だからたまに外食して(特に可愛い、もしくは綺麗な魔物娘がシェフの料理店)、心の潤いを取り戻すのである。
……いかん、朝からしんみりとしてはいけない。人間と魔物娘がごった返す街でも、成人を迎えてから数年間独身で居る者は割りと多い。それは何故かと言うと、学生時代に人間の女性、もしくは魔物娘と親密になりそのまま十八歳の卒業と同時に結婚する、といったこの街ではもはやよくある光景の男側が、たまたま自分ではなかったのだ。ただ、それだけの話である。
…………あれ、このパンしょっぱいぞ。おかしいな、ごく普通の食パンを買った筈なのだが。もしかしてパン屋さんが塩の分量を間違えたかな? でも、それなら昨日食べた同じ食パンはしょっぱくなかったのだが。あっれー、おっかしいなー。
……………………。
さて。
食事を済ませて軽く泣いた後、目覚めてからずっと放置していた問題とここでようやく向き合うことにした。もう十分に意識は覚醒している。
というのも、身に覚えのない宝箱からただならぬオーラを感じるのである。なんだろうか、このオーラ。もしや、殺気……?
まずいな、余計に調べたりするのが怖くなってきたんだが。
しかしここで完全放置を決め込むと俺の身に何が起きるかわかったものではないので、まずは昨日俺が何をしてベッドに飛び込んだのかを考察してみる。
昨日……いや、昨夜だ。思い出せ、思い出せ……。
定時に仕事が終わってから、明日は休日だぜヒャッハー! とテンション高めで酒場で一人酒――いかんまた目頭が――をあおって、いい感じに酔っ払ってから風に当たろうと思って、ちょっと街の外を散歩していたら……。えっと。
先ほど身に覚えがないと言ったが、訂正する。身に覚えあった。街の外を散歩していたら宝箱がぽつーん、とあったのだ。今考えると滅茶苦茶に不自然な場所にあったものだ。普通洞窟の中やダンジョンにあるようなものだが、何故あのような場所にあったのだろうか? しかし酔っ払っていた俺はそんな事を全く疑問に持つ事無く、むしろ喜々としてそれをお持ち帰りした。お宝、ゲットだぜぇー! って感じで帰宅――やべぇ、絶対変な目で見られていたよな……――してから、中身も確認せずにベッドにダイブした。
回想完了。
何やってるんだろう俺は…………。なんというか、自分の頭をぽかぽかして無駄にキモい声で「俺のバカバカ☆」とかやる気にすらなれない。自分自身の行いに普通にドン引きである。独身で童貞をこじらせるとこんな行いまでしでかしてしまうのだろうか?
酔った勢いというのは恐ろしいものだ。俺は誰も見ていないのにうんうん、と頷いてから、ただならぬオーラをさらに感じ取り、思わず中身を確認しようと開け――――閉じた。
なんだ今のは。
本来なら宝箱に入っているはずがないモノが見えた気がする。わかりやすくいえば、人間っぽいのが入っていた。
あれか? もしかして俺は誘拐事件に巻き込まれているのか? 宝箱の中に子供を押し込んで、人身売買が行われていた……? いやしかし、なら昨日あんな道端に置いてあったのは何故だ?
だとすると、これは…………魔物娘?
俺はもう一度確認の為にほんのすこーしだけ宝箱を開けると、
「残念! ミミッ――――」
即閉じる。
すると宝箱が、がたんがたんと暴れだした。
「ちょっとぉっ! すぐ閉じたらダメでしょー! 反則だよー!」
しかも宝箱が抗議してきた。……いや、正確には宝箱に入った少女が、だ。宝箱に入った少女が暴れているこの光景。
……怖いな。あと、反則ってなんだ。
ともかく、宝箱の中身は確認した。金銀財宝、一度装備したら外れない呪いの鎧、256回戦闘しないと状態異常のオンパレードが消えない盾、ただのからっぽな宝箱じゃなくて、魔物娘のミミックが入っていたのだ。
これでもまぁ、俺も物心ついた頃には魔物娘が普通に居た人生を送ってきたので驚きはしな
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