エリーさんが言うには、市役所は街に誰が何処に住んでいるのか、既婚か未婚か、既婚の場合は子供が何人居るのか? そういった情報を管理をする施設の事らしい。また、結婚する際に市役所に報告すると街からの支援を受ける事も出来るというメリットもあるのだとか。
それにこの街の噂を聞きつけて移住してくる魔物娘や人間も多く、だから市役所という施設を建てたそうだ。
フェリーチェの噂。それはどんな魔物娘も人間も分け隔てなく受け入れ、衣食住の安定の為の支援をする、という眉唾なもの。
そしてどうやらその噂は本当らしく、ワタシのような魔界で生まれた魔物娘、果ては本で読んだ事のある、遠い東の国ジパングのキモノを着た魔物娘とその夫までが移住の手続きをしにやってきていたのだ。もしかするとこの街は世界の魔物娘の縮図となってしまうのかもしれない。
手続きを待っている間、市役所に居る魔物娘達を見てワタシはそう思った。
「31番でお待ちのラセナさん」
「ぁ……は、はい」
急に呼ばれると緊張して、声が裏返りそうになった。
呼ばれた席に行くと、若い男性でさらに緊張してきた。目線なんて、合わせられない……。
「ダークスライムのラセナさん、ですね。本日は移住手続きとの事ですが」
「は……はい」
「市民登録は既に終えていますので、この街でどんなお仕事をしたいか、どんな生活をしたいかを簡単でいいのでお聞かせください」
「え、あの……、えっ?」
「?」
市民登録が終わっている……? さっき、書類に名前と種族と年齢を書いただけよね。それだけでいい、の?
「登録が終わっているって、あの」
「あぁ、その事ですか。よく言われます」
担当の職員さんは小さく笑って、
「これはフェリーチェの領主であるクリスティーナ様が決められた事なのです」
「領主……」
「過去に何をしていようが、フェリーチェは歓迎する。教会の者であろうと例外はない、と」
「教会、って、あの教会……ですよね」
人間しか居ない国で、人間以外の全てを憎んでいて、特に魔物を怨んでいる……教会の人間。
そんな危険な人達さえも歓迎するなんて、街の魔物や人達は…………。
「ご安心ください。この街にはとても沢山の種族が集まっているのです。教会の者もおいそれと手出しは出来ません。それに、この街にはドラゴンが三人居ますから」
「ドラゴン……が、三人?」
「ええ。この街が出来るきっかけになったのが――――」
職員さんからこの街が出来るきっかけを聞くと、どうしてこの街がしあわせの街だと呼ばれているのかを再確認できた。
ドラゴンとホブゴブリンの偶然の出会いから始まり、そして今がある。
自分の事のように楽しく語る職員さんを見ていると、この仕事が好きだって事とこの街が本当に好きだって事が伝わった。
「……と、説明が長くなりましたね。申し訳ありません」
「いえ、あの……、この街に来たばかりですけど、より好きになれた気が、します」
「ありがとうございます。僕もこの街が大好きなので、そのお言葉が嬉しいです」
この街を好きだといってくれるのが嬉しい。
エリーさんも職員さんと同じ事を言っていた。街に移住してくる魔物娘や人間が多いのは、街に住んでいる人達がフェリーチェを本当に好きでいるからというのも理由の一つにあるのかもしれない。
「それでは、どのような仕事、生活がしたいかを簡単に教えていただけませんか?」
「…………そうですね」
ただ漠然と『この街で生活してみたい』と思っても、勝手に食事が出てくる訳もなく、お金を支払って食べ物を買う。そのお金は何処から来るのか? それは労働。
労働をしなければお給金はもらえない。以前のように森を歩いて木の実を探すだけじゃダメなんだ。これからのワタシは変わっていかなきゃ……!
でも実際に働くとなるとどんな仕事をすればいいんだろう? お父さんは森で狩りをしたり、果物を取ったりしていて、お母さんは家事をしていたし……。うーん、でも力仕事は出来ないかもしれない。ワタシはダークスライムで動きもちょっと遅い。どちらかと言えば静かな場所であまり身体を使わない仕事の方がいい、かな。
「静かな場所で、あまり力仕事がないような、職場……と、か……」
ここまで言っておいて、なんて贅沢な事を言っているんだろうと凄く後悔した。
そんな都合のいい簡単な仕事なんてあるのだろうか? どうしよう、ワタシ、凄く馬鹿な事を――――。
「ふむ、了解しました。となると、事務の仕事が主になるようなお仕事など如何でしょうか?」
「事務のお仕事……」
「それと、失礼ながら貴女は魔法を使えると思うのですが」
「はい……ある程度のものなら……」
職員さ
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