太陽の光が濃度の高い魔力によって遮られていて一日中薄暗く、深奥に住むノームの夫婦によって作られた独特の構造をした森。一度迷い込めば、男は濃度の高い魔力に中てられ発情した魔物娘に襲われ、そのまま夫婦となる。女もまた、魔物娘に襲われて同族にされてしまうか、高濃度の魔力という環境の中で育った淫猥な触手達の餌食になりサキュバスにされてしまうか。
その森はもはや唯の森ではなく、魔界という名のダンジョンだった。
ワタシはその魔界に生まれ、物心ついた時にはこの世にはワタシやお母さんのような身体をした女と、お父さんのような身体の男しか居ないと根拠もなく信じ込んでいた。
それから時が経って、普通だと思っていた世界が『魔界』と呼ばれる場所であり、全世界は魔界と同じような場所ではないと知った。世界にはお父さんと同じ『人間』と言う種族が居て女の人間も居る。そしてワタシやお母さんのような種族の事を『ダークスライム』と言うらしい。
でもそれはお父さんやお母さんに見せてもらった本、そして友達のサキュバスのシルヴィアちゃんとかから聞いたお話に過ぎなくて、魔界から一歩も出た事がないワタシは魔界とは違う環境の世界があって、人間の女性というものをすぐには理解出来なかった。ワタシがちょっと抜けているからなのか、それとも何か別の原因があるのかはわからないけれど、とにかくそう言う世界があるんだという強引なやり方で認識するしかなかった。
そして成長したワタシは、お父さんとお母さんを二人っきりにする為に家を出た。物心ついた時から家を出るまで、ずーっと二人は仲良しで。小さな時には目の前でイチャイチャし始めて、次の瞬間にはお母さんがお父さんに覆いかぶさってエッチしていたなんてざらで。それから成長してエッチをする事の意味を知ったワタシは気にしてないって言っても、気を使ってくれてエッチな雰囲気になったら二人で何処かへ行く事が多くなっていたからだ。
お父さんとお母さんに、ワタシは二人の愛の結晶なんだって教えてくれたけれど、いつまでも愛の結晶が二人きりを邪魔するのは良くないと思ったから。
それにシルヴィアちゃんもワタシより先に男の人と夫婦になる為に家を出たのもあった。シルヴィアちゃんったら、家を出たら真っ先にワタシに別れの挨拶に来てくれて。あの時は嬉しかったなぁ……。
だから、ワタシはワタシなりに考えて、お父さんとお母さんの二人の幸せの為とワタシ自身も男の人と結婚する時期だったのもあって二人に見送られて家を出たのだ。
当てはなかった。
一度は魔界から出て新しい場所で新しい生活を始めようと考えたのだけれど、そこでどうしても反魔物国家、教会という存在が怖かった。ワタシ達魔物娘の事を強く憎んで排除しようとする人たちの総称。
まだ魔界になっていない場所なら話は違ってくるけれど、完全に魔物娘の巣窟となった魔界は易々と手を出さないという。ワタシにとっては何でもないこの魔力が、人間にとっては強い影響を及ぼしてしまうからだそうだ。
つまり魔界は魔物娘であるワタシ達にとっては安全な場所で、平穏な日々を送られる絶好の場所だったのだ。
結局、家を出ても魔界からは出られなかったワタシは、生まれた家よりも離れた、魔界の深奥に住み始めたのだ。
ワタシが生まれた家はとても過ごしやすくって、他の魔物娘たちの家族も沢山住んでいるダンジョンの中の住宅街。そんな場所には食べ物も豊富だった。
でも、ワタシが家を出てから住み始めた場所は街と呼ぶには程遠い、まさしくダンジョンと呼ぶべき場所。
お腹が空けば虜の果実が実っている木を探して採り、偶然見つけた浅い洞窟に持ち帰ってのんびりするだけ。
こんなダンジョンの深奥、しかもさまざまなトラップだらけの場所に独身の男の人なんて来る訳がなかった。来たとしてもすぐに同じ独身の魔物娘に襲われてしまう。
そもそも簡単に来れるなら、とっくにこの魔界なんて滅んでいただろう。
でも、やっぱり心の奥にあった怖いという感情があったから、この魔界を出る勇気が湧かなかった。
毎日毎日、お腹が空けば虜の果実を探して。それで見つかればある程度採ってから帰って食べて。そして眠くなればそのまま寝る。
それだけの生活だった。
他の魔物娘に相談しても「そんなに怖くない」って言ってくれるけれど、でも駄目だった。この薄暗い魔界を出たら、すぐにワタシのような臆病なダークスライムはやられちゃう、と。
だから毎日同じ事の繰り返しで。家を出た半分の意味がないなぁなんて。
でも勇気がないワタシは、お腹が空いたから虜の果実を探して。これからもこうして一人で過ごしていくのかなぁって思いながら探していて。
半年もすれば、ダンジョンでも慣れるという過信も相まって…………。
足元から
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
9]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録