この近隣では最大の魔界である魔物たちの街にドラゴンが飛来した。
夫もいないのに、ほとんど自分の住処から外に出ないので、魔物たちの間では密かにドラゴンのことを「ひきこも竜さん」など呼んでいた。
そんなドラゴンが街にやってくる用事といえば、大きな戦争か財宝関連がほとんどであった。
特に戦争となれば、人間の男を獲得するチャンスと独身の魔物たちの関心が寄せられるので、ドラゴンの来訪がすぐに街の話題になるのはいつものことだった。
しかし、注目されていようが、されまいが、ドラゴンはそんなことは眼中になかった。そして、脇目もふらずに街にあるサバト支部に飛び込んでいった。
サバトは、本来は魔王軍魔術部隊なのであるが、その長を務めるバフォメット――山羊の角を持つ幼い女の子の容姿をした魔物が「幼い体型をしたロリっ娘の素晴らしさを世界に知らしめる」という個人的な教義を広く世間に説くための宗教団体として大いに私用――もとい、活用していた。今ではもはや、魔術部隊であることの方がちょっとしたトリビアになっているぐらいである。
魔界のちょっとした街であれば、必ずと言っていいほど、このサバトの支部があり、その支部長には必ずバフォメットが一人赴任している。そして、そこを拠点にロリっ娘とその愛好者の勢力拡大を、肉体的にも精神的にも嗜好的にも、精力的に活動している組織、それがサバトであった。
もちろん、そのサバトを構成するメンバーはロリっ娘である。一般的には魔女と呼ばれる幼い姿をした魔物たちで、彼女たちがバフォメットの指揮のもと、布教活動を手伝っていた。あと、「おにいちゃん」と呼ばれている、ロリっ娘を愛するロリコンの男たちもサバトのメンバーで、ロリっ娘たちの活力源である愛と精と、なでなでを供給している。
しかも、その前身が魔術部隊――いや、現在も魔術部隊だけに、魔術の扱いのノウハウは豊富で、その構成員の魔女たちも魔術に長けている。なので、魔術部隊らしく、魔法道具や薬などを製作する活動も活発に行っている。ただし、その大半はサバトの活動に有益であるから作られたのだが、魔物たちにとってはどちらでもよかった。
ともあれ、そういった理由からサバトには、サンプルとして珍しい魔法道具が集まったり、新しいアイテムが作り出される場所であることは間違いなかった。
そのため、ドラゴンが街の官庁街ではなく、サバトに向かったという話は、ドラゴンの飛来理由が、サバトが新しい魔法アイテム開発したのだという噂になり、今度は既婚の魔物たちも興味を持って噂に加わった。
それというのも、財宝に次いで魔法道具はドラゴンの収集対象で有名である。引きこもりのドラゴンも、サバトで作られる魔法道具には興味があり、好奇心に負けて、重たい翼を羽ばたかせてやってくるのである。
魔王軍の大規模召集に、ドラゴンが嫌々ながらも参加しているのは、バフォメットの仲介のおかげとも言われていた。
しかし、今回、ルシア・ドラゴンがサバト支部に突撃をしたのは、魔物たちが誰一人予想しない理由であった。
「きぃは……バフォメットはどこ!」
ドラゴンは支部に入るなり、咆哮に近い怒鳴り声をあげた。
取り次ぎに出てきた幼い姿をしている魔女は、その場で腰を抜かしてへたりこみ、涙目になっていた。
幼い容姿になってメンタルも若干幼児化しているためといいたいが、大の大人でもドラゴンの咆哮に怯まないでいろというのは、勇敢のスキルが付与した装備でもしていなければ無理難題だろう。
むしろ、腰を抜かして半泣き状態で耐えただけでも、たいしたものである。あとでお兄ちゃんにいっぱい褒めてもらえるレベルだ。
だが、それ以上は望めるわけもなく、腰を抜かしつつ、支部長のバフォメットがいる部屋の方を指差しするのが精一杯であった。
ドラゴンは結局、何人かの魔女を大泣きさせたり、腰を抜かさせてお漏らしまでさせたりして、阿鼻叫喚の幼稚園図を描きながらバフォメットのいる部屋へとたどり着いた。
扉をノックなどするはずもなく、ぶち破る勢いで開けると、バフォメットは古参の副官をしている魔女相手に休憩のティータイムを楽しんでいた。
バフォメットは、伽羅色の落ち着いた茶色の髪にカールした山羊の角を生やし、獣の頭蓋骨をリアルにかたどった髪飾りをつけていた。そのおどろおどろしい髪飾りが生意気そうでもあどけなさのある顔つきにアンバランスな印象を与え、彼女の幼さを強調するものになっていた。
そして、その幼い体つきをこれ見よがしに魅せつけるかのように、露出の高い服をつけていた。ただ、肘から先と、膝から先は幼い肢体ではなく、獣に毛におおわれてかなりのボリュームと逞しさがあった。もっとも、小さな子供が仮装でそういう手袋とブーツをつけているように見えて、まったく
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