幼馴染の男の子

 これは岡村里佳子の日記より、魔物化する直前の半月間を抜粋したものである。

 一部、判別不能な箇所も、そのまま掲載する。

5/21(金)曇り

 今日も朝の挨拶だけ。また来週まで持ち越し。私の意気地なし。

 シュウくんは、今日も優しく挨拶を返してくれたのに、どうして、そのあとに会話をつづけられないのか、自分のことながら情けない。

 外ではミステリーとかしか読まないけど、実は恋愛小説が大好きで、家でよく読んでいる。だけど、恋愛小説のヒロインのようには現実はいかない。リアルってつくづく、ハードモードだよね。

 シュウくんとは幼稚園の頃から家が隣同士の幼馴染。

 冴えない外見の私は小学校の時に軽いイジメにあっていた。仲の良かったと思っていた友達も離れていった。

 でも、シュウくんだけは変わらずに私に声をかけてくれた。嬉しかった。イジメに負けないって勇気をくれた。

 だから、いつまでもシュウくんに頼っていてはダメと思った。私はシュウくんに甘えないように、シュウくんに名前を呼ばないでってお願いした。

 シュウくんは何も言わずに言う通りにしてくれた。

 何も聞かないことでシュウくんに応援されている気がした。私が頑張れば解決できると信じてくれていると。

 イジメは解決した。

 でも、シュウくんにまた名前で呼んでって、言い出せなかった。

 私の勝手で呼ばないでって言って、イジメが解決したから元に戻してって、都合よすぎるから。

 私、美人じゃないし、かわいくもない。しかも、明るく元気でもないし、地味。とどめはシュウくんの幼馴染っていう負け属性なんだ。

 顔はそばかすがあるし、眼鏡しているけどコンタクトにするのは怖いし、オシャレがよくわかんないから髪も黒で染めてない。髪型も学校の校則指定の三つ編みおさげ。スタイルもよくないし。

 自分で言ってて自己嫌悪。シュウくんの彼女になりたいけど、優しくてかっこいい彼の隣に並ぶ自信がない。だから、せめて、友達にぐらい戻りたい。

 あーあ、自信が欲しい。



5/22(土)晴れ

 今日は土曜日だからシュウくんは学校は休み。一人で登校するのは寂しい。特進コースの補講なんて申し込まなきゃよかった。どうせ、大した授業じゃないし。

 でも、無理言ってランクを下げさせてもらって、この学校にさせてもらったから、パパやママに安心してもらうために受講しておかないといけない。だけど、二学期になったら、予備校の方がレベルが高いって補講を受けないようにお願いしてみよう。

 私も成績平凡だったら、普通科を受験したのに。勉強なんてするんじゃなかった。

 学校を帰ってきたら、パパが珍しいお土産を貰ってきたみたい。

 今話題の魔界産の果物で『虜の果実』っていうものらしい。

 魔界は今、すごく話題だ。特に男子の間で。

 何しろ、魔物娘っていうか、サキュバスさんたちはびっくりするぐらい美人ばかり。

 芸能界の美人女優とか、美少女アイドルとか、霞んで普通に見えるレベル。女として、完全に勝てないって思っちゃう。

 あー、あんなのがこっちの世界に来ないでほしい。

 ただでさえ、私みたいね根暗な喪女なんて、普通の女子にも勝ち目ないのに。

 シュウくんはまだフリーだけど、あんな優しくてかっこいい男の子、発見されたら、あっという間に餌食になっちゃう。

 そのためにも、来週は頑張らなくちゃ。

 それにしても、この『虜の果実』、すごくおいしい。

 形はかわいいハート型で、皮が透けるように薄くてピンク色。中の果肉は白くて、桃よりもジューシーで、甘くて、蕩けそう。今まで食べたどのスイーツより、この果物の方が上って言い切れる。

 なんでも、美容効果があるっていうことらしいから、ママとお姉ちゃんもパクパク食べてる。もちろん、私も。少しでも効果があれば、自信がつくかも。



5/23(日)曇りのち晴れ

 信じられないかもしれないけど、『虜の果実』の美容効果はすごい。

 ママもお姉ちゃんも私も、肌がつやつや!

 ママはパパに追加注文するようにお願いしている。もちろん、私たち娘コンビもおねだりした。

 なんとか、パパのおかげで定期的に購入できるようになった。持つべきものは権力だね。

 ほんと、どうしよう? 綺麗になっちゃった。

 明日、ちょっと勇気出してみようかな?

 これは神様のくれたチャンスに違いない。

 ありがとう! 神様。私、頑張ります。



5/24(月)曇り

 ついに、会話した!

 何年振り? 四年ぶりぐらい?

 話したのは「もうすぐ衣替え」「もうすぐ梅雨」

 ……季節の挨拶みたいだけど、人類には小さな一歩でも私には大きな飛躍です。

 しかも、それだけじゃない。

 
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6..9]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33