幼馴染の女の子

5/21 金曜日

 僕の名前は伊藤修平。大平高校に通う高校一年生です。

 身長はちょっと低くて、運動も苦手で、少し太っている、顔も平凡な、どこにでもいるモテない男子高校生モブです。

 僕が唯一、普通のモブでないところがあるとすれば、それは――

「おはよう。伊藤君」

 隣の家に幼稚園の頃から一緒の幼馴染がいることです。

「おはよう、岡村さん」

 彼女の名前は、岡村里佳子さん。同じ大平高校に通う高校一年生です。

 身長は僕よりも少し低くて、髪の毛も染めずに黒髪で、校則を守って三つ編みのおさげにしている。黒ぶち眼鏡でそばかすのある、正直、パッとしない女の子です。

 もし、彼女が美人だったら、僕は主人公属性だったかもしれないけど、その場合は存在を黒歴史にされている自信はあります。もしかして、今の彼女にも黒歴史扱いされているかも。

 朝の挨拶を済ませると、そのまま黙って表通りのバス停に向かいます。もちろん、会話はありません。

 僕もおしゃべりは得意じゃありませんし、彼女も物静かです。クラスのうるさい下品な女子とは違う。さすがは、特進クラスだと思う。

 バス停でバスに乗って、学校までは二十分ほどです。朝のラッシュ時ですけど、ここは始発に近いので座れることもあります。

 彼女はバスに乗ると本を読み始めます。読んでいるのは小説です。ジャンルはミステリーからファンタジーまで、さまざまです。でも、恋愛小説は苦手みたいで、読んでいるのは見たことないです。

 バスが学校前のバス停に止まって、バスを降りて、校門に向かいます。

「それじゃあ」

「うん」

 普通科の僕と特進コースの彼女とは、校舎が違うので、校門で僕たちは短く言葉を交わして別れます。

「おはようであります、伊藤殿」

「いいよなー、幼馴染。俺も欲しーっす」

「おはよう、加藤君、佐藤君」

 彼女を見送った後、クラスの友達と合流するのが、いつものルーチンです。

 軍事マニアの加藤君と、アニメオタクの佐藤君です。二人ともヒョロガリです。クラスでは「兄弟?」とか言われるぐらい似ています。話すと見分けつくんだけどね。

 僕もアニメや漫画、声優、アイドルとかは好きだけど、オタクやマニアと言われるほど詳しくないから、少し二人のことがうらやましいです。

 僕の個性は幼馴染がいることだけだから。

「確かに幼馴染は得難き存在でありますな」

「そうっすよ。幼馴染に彼氏ができても、結婚しても、幼馴染だって事実は消えないんすよ。それって、最初の人と同じぐらいのインパクトっすよ」

「そ、そうかなぁ……」

 二人に言われると、僕もちょっとうれしくて照れます。

「話は変わるでありますが、貴殿らは魔界の話を知っておられますか?」

「魔物娘のっすよね? 当然、知ってるっすよ。三次元はアレっすけど、魔物娘のクオリティなら、余裕でアリっす。ていうか、二次元に行けない俺のために二次元から三次元にやってきてくれたって運命感じてるっすよ」

 佐藤君の鼻息が荒いです。

「その魔界と限定的ではありますが、交流が開始されたそうであります。そのうち、街で魔物娘を見かける日も遠くないでありますよ」

 加藤君も鼻息が荒いです。

「それは楽しみだね。でも、あんな美人の人は僕らなんかには高嶺の花だけどね」

「伊藤氏、夢を壊さないでくださいっすよ」

「ご、ごめん……」

「ふふふ、そこは安心するであります。魔物娘たちは男であれば、イケメンにはこだわらないということであります。しかも、ベタぼれになってくれるという情報を入手したであります」

「マジか! ワンチャンある?」

「ワンチャンどころか、メニーチャンであります」

「うおおお! 生きる気力がわいてきたっす!」

 僕たちは教室の隅に固まって、静かに盛り上がっていた。

 魔物娘か。僕のところにも来てくれたらいいな。

 ― ― ― ― ―
5/24 月曜日

「おはよう、伊藤君」

「おはよう、岡村さん」

 毎朝の挨拶を済まして、バス停へと向かう。

 いつもは並んで歩かないのに、今日は珍しく並んで歩いてきた。

「もうすぐ衣替えだね」

「あ、うん、そうだね」

 話しかけてきたのは、高校に入ってから初めてかも。

「梅雨ももうすぐだし、いい季節って過ぎるの早いよね」

「あ、うん、そうだね」

 二言以上の会話って、いつ以来だろう? やばい、緊張する。

 でも、三言目はなかった。バス停に着いて、いつものようにバスに乗り込んで学校に向かった。

「今日、久しぶりに会話したんだ」

「詳しく!」

 学校について友人二人に今朝のことを相談した。

「ふむ。心境の変化でありますか。何かを隠すための陽動作戦の可能性もありますな」
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