人が立ち入らない深い森の奥。人を寄せ付けない沼地の奥。
そんな辺鄙な場所に居を構え、自分の欲望が命じるままに魔術を極めんとする魔女。
魔女と言っても、サバトに所属する魔女とは異なる性癖のため、ダークメイジと呼称するのが推奨されているが、一般にはこちらも「魔女」と呼ばれることが多い。
彼女たちは己の享楽のために魔術を磨き、使う。同じ魔術のスペシャリストであるサバトの魔女たちのような組織力はないが、統率されない彼女たちは、彼女たちの都合でしか動かない分、サバトよりも厄介な存在と言えた。
だが、彼女らは魔術の研究に精を出しているので、自分の住処からめったに出ることはない。だから、不用意に近寄らなければ害はそれほどない。
魔女の森、魔女の沼は禁足の地として周囲に知られているのはそのためである。
しかし、そんな魔女の住処を訪れる人間は定期的に現れる。魔女を退治して名を挙げたい勇者や、禁止されると破りたくなる天邪鬼たちである。
だが、そんな無謀で愚かな人間たちは、魔女のめぐらした罠にかかり、魔物の餌食になるだけだった。
今日もまた一人、愚かな人間が魔女の森に踏み入った。
「絶対、アレキサンダー君に認めさせるんだから!」
ピトンはおもちゃのような短い剣を突き上げ、木枠に皮を張っただけの軽量重視の防御力が低い盾を振り回した。
身長は大人の胸のあたりぐらいの十代になったばかりのピトンは、強めの天然パーマで短くしていても、カールしているのが分かる亜麻色の髪で、ハシバミ色の瞳をしたたれ目の、なんとも頼りになりそうにない少年だった。
確かに、彼は見た目通りに頼りなかった。剣術の腕は並み。力は平均より少し上ぐらいだが、俊敏さは並みよりちょっと下。注意力や洞察力、機転などもパッとしない。知識も知恵は仲間内では下から数えた方がいいぐらい。カリスマ性もなければ、ムードメーカーのタイプでもない。取り柄のない少年の見本のような少年だった。
昨日のこと、ピトンは、彼が所属しているバビロン少年団の団長のアレキサンダーにこう言われた。
「お前、何か役に立ってる?」
ピトンはいきなりのことで驚き言葉が出ず、考えても反論できずに沈黙した。
「他の奴らはいろいろと活躍してるけど、お前って、大した活躍してないよな」
同じ少年団の仲間にも笑われた。
そこで、彼は仲間たちに自分を認めさせるために魔女の森に討伐にやってきたのだった。
一言で言うなら、無謀。いや、馬鹿の方がしっくりくるかもしれない。
勢いだけで魔女の森に足を踏み入れた彼だが、魔物たちも困惑した。
「どうしよう? ショタ属性ある奴いた?」
「いないよ。だって、ここ、魔女の森だよ? ここに来るのって、脳筋戦士か陰険魔術師って相場が決まってるし」
「だよねー。捕まえて、ショタ好きのところに回す?」
「うーん、面倒だし、スルーしちゃダメかな?」
「……その手があったか!」
「じゃあ、スルーで決定」
魔物娘たちも男性は好きだが好みはある。不細工とかは気にしないが、ショタとかは変に倫理観があったりして遠慮している魔物娘も少なくなかった。
「マジか!」
これで頭を抱えたのはこの森の主、ダークメイジだった。
スルーして森を抜けさせると、変に調子づいた人間がやってきて面倒になるし、一応、メンツもある。でも、誰も手を出さない。
「ちょっと! 何、アシストしてるのよ!」
魔女の森魔物娘協同組合の面々は、ピトンが魔女の罠にはまらないように陰ながらアシストして、魔女の家の方へと導いていた。
「なんか、かわいくて、応援したい気分?」
「母性本能?」
「夫にするなら逞しいのがいいけど、子供はかわいいもんね」
はじめてのおつかいをアシストしたい彼女らの気持ちは理解しつつも、魔女はますます頭を抱えた。
「私だって、ショタ属性なんてないわよ……適当にあしらって、帰ってもらおう」
魔女はしょうがないと腹をくくって、小さな勇者を出迎える準備を始めた。
「魔女の森とか言ってたけど、こけおどしだな」
一方、ピトンは大きな声を張り上げて森の道を歩いていた。
「魔物も、僕に恐れをなして姿を現さないじゃないか」
魔女の森に入ったばかりは仲間を見返すという強い意志があったが、森の中を進む間にその燃料が切れていった。なので、こうして虚勢を張らないと怖くて前に進めなくなってしまう。現に、張り上げた声が所々裏返っていた。
「魔物、出てこい! 僕の剣の露にしてやる!」
無意味に剣を振り回し、恐怖という見えない敵と死闘を繰り広げていた。
「かわいいわねぇ。ショタの気持ちが少しわかったかも」
そんなピトンの様子を魔女は遠見の鏡越しに見
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