第十一話「果てしなき修行 〜〜竜騎士槍術訓練〜〜」

 しっぽりと濡れた夜も明け、太陽が昇り始め、ドラゴニアの遅い朝がやってきた。

「なんだか、数日のうちに色々とあったが、やっと今日から竜騎士になるための訓練が始められるな」

 ザックは、朝の点呼を終えて、訓練に参加するため、中庭に向かってユードラニナと一緒に歩いていた。激動の数日間を思い出すと少し遠い目になる。

「そうだな。だが、これから始まる竜騎士の訓練も厳しいぞ。気を抜かずにな」

 変な意味でやり切った感が漂っていたザックの気の緩みをユードラニナが締めた。

「ああ、そうだな。ここからが本番だもんな。ありがとう、ユニ」

 自分でも気の緩みに気が付いて、ユードラニナに微笑みかけた。

「ば、馬鹿者。パートナーとして当然のことを言ったまでだ。礼など不要だ。それより、早く行くとしよう。訓練教官が待っているぞ」

 ユードラニナに追い立てられ、ザックが訓練が行われる中庭に出ると、そこで準備体操していた十数人の男たちの視線が彼の方に向けられた。ザックはここ数日で注目されることに慣れたのか、その視線を意識して感じないようにした。

「あなたが候補生のザック君?」

 オーソドックスな緑色の鱗をしたワイバーンが声をかけてきた。

 薄い水色の髪にアイスブルーの瞳をしているが、その色合いを無視するような温かい微笑を浮かべていた。

 彼女の首には、赤い宝石のついたチョーカーが輝いていた。

 これはドラゴニアでは結婚首輪と呼ばれるもので、夫がいる竜がつける既婚の証の装飾品である。

「私は、竜騎士団の第十教導隊、通称竜の穴部隊の隊長をしているヘルガです。あなたの訓練を指導するので、よろしくお願いします」

 ザックはやたら丁寧な教官に少しうろたえながら「よろしくお願いします」と頭を下げた。

「そんなに堅苦しくならなくていいですよ。候補生の間、あなたの所属は第十教導隊になります。任務など命令は基本、私経由で行われることになっています。他の部隊の隊長から何かお願いされたら、できうる限り私に一声かけてください」

 候補生は他の隊の隊長や隊員から色々と雑用をお願いされることがあるらしかった。

「それと騎竜のユニも第十教導隊所属になるんだけど、零特預かりになっているから、そちらの仕事兼任ということでよろしくね。でも、単身での出張はないから安心してね」

「わかった、ヘルガ。ザックのことをよろしく頼む」

 ユードラニナがザックの隣に並んでヘルガに頭を下げた。これでは子供を学校の先生か何かに預ける保護者みたいだとザックは思ったが、あながち違ってもいないので何も言わなかった。

「わかっていますよ、ユニ。あなたが選んだ人ですから、ちゃんと責任もって一人前の、どこに出しても恥ずかしくない竜騎士にしてみせます。信じてください」

 大船に乗ったつもりでと、ヘルガはちょっと控えめの自分の胸をポンッと叩いた。

「さて、ザック君。見たところ武術の心得はないよね?」

 ヘルガはザックに確認するように問いかけた。

「はい。……無いです」

「別に気に病むことはないわ。無ければ習えばいい。何か始めるのに遅いということはないのよ」

 引け目を感じていたザックにヘルガは優しく言った。

「武術の心得がないから、基礎の基礎から説明とか必要だと思う。でも、いちいち、どこまで知っているか確認するのも面倒だから、知っていることでも黙って聞いておいてくれますか?」

 ザックは当然のことと了承した。

「じゃあ、まずは、竜騎士の槍の説明をします」

 ヘルガはザックたち候補生が持っているものと同じ槍を手に取った。

「これは竜騎士の槍。竜上槍という突撃槍の一種です。攻撃方法はほぼ突くだけという、実にシンプルな武器です。でも、だからと言って侮らないでくださいね。シンプルゆえに誤魔化しが利きません」

 翼膜のついた手を突き出して、槍を横にしてザックに全体が見えるようにした。

「この槍の三分の二を占める円錐になっている部分が穂先と言います。言うまでもないですが、攻撃する部分です」

 ザックもそれぐらいは知っていたが、約束通り、黙ってうなずいた。

「穂先の先端から、切っ先、胴、鍔と分けられます。先端の手のひら一枚分が切っ先、根元から同じく一枚分が鍔、残りが胴となります」

 ワイバーンの手のひらではなく、人間サイズの手のひらであることは彼女が指で示す範囲で理解できた。

「ですが、きっちりした境界線があるわけじゃないですから、切っ先、胴、鍔の区分はだいたいでよいです」

 使う部分を指示をするときに必要なので区分しているだけと追加補足した。

「穂先以外の部分が柄です。鍔のすぐ近くを鍔元、柄の一番端、この飾りのついたところが柄頭、もしくは石突といいます。これで
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