小学生じゃなきゃ、だめなんですか?

 砂糖菓子みたいな、甘い匂いのする部屋を何気なく見渡した。

 部屋はパステルカラーで彩られて、レースやリボンで飾られている。

 ベッドの上には、カピバラとペンギンの抱っこサイズのぬいぐるみが仲良く並んでいた。

 サイドボードの上にある、透明の小物入れには、アクセサリーが収納されていた。
 ビーズアクセや、キラキラと派手なアクセサリー、色とりどりのワンポイントの付いた
ヘアゴムがきちんと分類されている。

 まさに、理想的な高学年の女子小学生のお部屋と言えるだろう。

 この部屋も、今日で最後と思うと、感慨深いものがある。

「――せんせぇ……」

 女子小学生のかわいい声で呼ばれた気がした。
 この尊敬と憧れの混じった呼び声は、何度聞いても気持ちを高揚させる。

「先生。大吾せんせいっ」

 はっきりとした呼び声に僕は我に返った。

 目の前で、一人の少女がプリントを僕の方に差し出していた。
 肩にかかる黒髪セミロングで、パッチリとした大きな目は不思議そうに僕を見ている。

「あ、ああ。ごめん、悠美ちゃん。何かわからないところがあった?」

 僕はこの少女、笹山悠美(ささやま・ゆみ)ちゃんの家庭教師をしている。

「もう、全部できました」

 かわいいほっぺをちょっと膨らませて、プリントを押し付けるように渡してきた。

 僕はプリントを受け取って、答えをチェックした。

 粒の揃った丁寧な字が解答欄に並んでいる。だけど、字に少しばかり丸みがあるのが、
女子小学生らしくて、非常に興奮する。文字に興奮する僕は、自分でも末期と思う。

「うん。間違っているところは無いよ。完璧。よく勉強してたね」

 僕は内心の邪な心を隠蔽して、爽やかな笑顔で満点を出した。
 これは家庭教師業の必須スキルの一つだ。

「あ、ありがとうございます、大吾先生」

 女子小学生が顔を少し赤くして、照れながらお礼を言う姿は、何度見てもいいものだ。
 なぜこれが世界遺産に登録されないのか、常々疑問に思っていることの一つだ、

 しかし、シチュエーションを差し引いても、笹山悠美ちゃんはハイレベルでかわいい。
 半端な子役アイドルなど余裕で差をつけれるほど、かわいい女子小学生だと言い切れる。
 少なくとも、僕が受け持った生徒の中でダントツと断言しよう。
 実際、何度もアイドル系のプロダクションにスカウトされたこともあるらしい。

「えーと、次は……」

 プリントを返して、僕は次のプリントを探した。

 探しつつも、ついつい脂肪の少ない太ももなどに目がいってしまう。

 今日の悠美ちゃんのコーディネートは、ちょっと気合が入っている気がする。
 リボンタイ付きのブラウスに、チェック柄のミニスカート、白のニーハイソックス。
 僕の好みにぴったり照準をあわせてきている。

「今ので中学校から出た宿題は全部、終わりました」

 プリントを受け取りながら、寂しそうに悠美ちゃんが言った。
 それを聞いて、僕も寂しくなった。これで彼女の家庭教師は終了だ。

 本来の契約では、先週の授業が最終だった。彼女の両親らからお礼を言われ終了した。
 だが、悠美ちゃんがどうしても宿題をみてほしいとお願いしてきたのだ。
 それで、今回はおまけで家庭教師代をもらわずに個人的に授業をすることになった。

「でも、ちゃんと一人でできているみたいで、安心したよ。これなら中学校に行っても、
大丈夫だね」

 お願いされた割には、僕は今回、ほとんど何もしていない。答えの確認をしたぐらいだ。

「そんなこと、ありません。あたし、先生がいたから、頑張れたんです」

 かわいいことを言ってくれる。こういう控えめなところも今時珍しくて、大好きだ。

「ありがとう。そういってくれると、家庭教師冥利に尽きるよ。でも、頑張ったのは
悠美ちゃん自身なんだから、自信持っていいんだよ」

 悠美ちゃんの家庭教師を依頼されたのは一年と少し前、小学五年の三学期中ごろだった。

 成績はまったく悪くないが、少し伸び悩んでいた時期だった。
 私立中学受験をすることは決まっていたので、悠美ちゃんのご両親らが不安になって
僕に依頼してきた。これでも、僕はカリスマ家庭教師として名が知れているからね。

 僕が受け持ってすぐ、成績は一気に上がった。当然だ――と言いたいところだが、
悠美ちゃんは本人の地力だ。

 伸び悩んでいたように見えたのは、彼女なりの勉強する順序が学習内容と反れただけだ。
僕が家庭教師しなくても、すぐに折り合いをつけて、成績は上がっていただろう。

「あの、先生……本当に、辞めちゃうんですか?」

 目にうっすらを涙を溜めながら言われると辛い。

「ああ、ごめんね。僕は小学生専門の家庭教師なんだ」

 悠美ちゃん
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6..8]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33