後編

 朝食の後、シャーリーは汽車の時間を確認して、「少しばかり調べ物をしてくる。駅で待ち合わせしよう」といって、出かけていきました。

 シャーリーは汽車の出発時間ぎりぎりに駅に飛び込んできて、あたしたちは大急ぎで汽車に乗りこむことになりました。ですが、なんとか予定通りスモーク・トランへと向かうことはできました。

「危なかったわね。何をしてたの?」

 座席について落ち着いてから、あたしは軽い昼食にと作ってきたサンドイッチをシャーリーに渡しました。

「ああ、ごめん。ちょっと裁判記録とヘンリー君の伯母という女性を調べていてね」

 シャーリーは、おいしそうにあたしの作ったサンドイッチを頬張っています。お腹がすいていたのか、急いで食べ過ぎて喉を詰まらせていたので、あたしのミルクたっぷりのミルクティーをあげました。

「ありがとう」

 はにかんでお礼を言うシャーリーはとってもラブリーです。

「言ってくれたら手伝ったのに」

 あたしは、シャーリーの口元についた食べかすを指でつまんで、自分の口に放り込みました。

「今度はそうさせてもらうわ。その時はよろしくね」

 シャーリーが笑顔であたしの頭をなでてくれました。シャーリーが男の子だったら、有無も言わせず、この場で愛してあげるのに。残念で仕方ありません。

 あたしたちがイチャイチャしているうちに、汽車はスモーク・トランに到着しました。

 スモーク・トランは、駅の周辺でさえ、店と呼べるものは数えるほどで、完全に農村の駅でした。駅前に広がる茨の荒野と田園風景が、のどかさを感じさせてくれます。もっと暖かくなって、天気のいい日にピクニックに来るには絶好の場所でしょう。
 サンドイッチだけじゃなくて、フライドポテト、白身魚のフライなんかを持って。シートを敷いて、一日中、イチャイチャするのは気持ち良さそうです。
 でも、今日は寒いし、仕事で来ているので、あたしたちは早速、辻馬車をつかまえて、ロリロット博士の屋敷へと向かうことにしました。

 このあたりだと、まだあたしたちのような存在は珍しいのか、遠目に見られていて、明らかに警戒されているのを感じました。ちょっぴり悲しい気分になっちゃいました。
 認知度は上がっても、実際に交流がないと、人間の反応はこんなものだとシャーリーは言っていました。

 辻馬車でロリロット博士の屋敷のある村に入ると、寂れてはいないものの、時間がゆっくりと進んでいる村だというのは感じられました。古き良きというか、古くさいというか、どっちを言うかは人それぞれだと思うけど、そういう村の風景でした。

 村を馬車で進んでいると、あたしたちは運良く、ちょうど帰ってきたところのヘンリー君とばったり会うことができました。

 ヘンリー君と合流したあたしたちは、お屋敷に向かいました。通いのお手伝いさんも、改築の業者も、博士が留守のために、今日はお休みとのことでした。

「早速だけど、お兄さんの部屋を見せてくれるかしら?」

 シャーリーは手始めに、ヘンリー君のお兄さんの部屋――今はヘンリー君が寝ている部屋に案内させ、部屋を調べ始めました。

 内側から鍵をかけて、外から開けれないか調べたり、窓枠に細工がないかを調べたりしていました。それと、壁や床、天井に隠し扉がないも調べていました。

 築年数の古い家なので、何か細工を追加すれば、そこだけが新しくなって、ばれてしまいます。元からの細工であれば、老朽化しているはずなので、隙間など、がたがついているはずだと、シャーリーは言っていました。

 結局は、何かトリックを施している形跡もないし、そういった仕掛けがあらかじめある家でもないということが分かりました。

 窓は築年数にしては、しっかりとしたものでした。ここは丘の上なので、風が強いことが多く、窓はしっかりしているそうです。扉の方も、重厚感ある分厚い木の扉で、鍵もこじ開けた跡はありませんでした。

「部屋の人が招き入れない限り、中には入れそうにないわね」

 あたしは、調べた結果を総合して感想を漏らしました。しかし、シャーリーはそれには同意せず、しばらく考えこんでいました。

「あの、シャーリーさん。やっぱり、僕の考えすぎでしょうか?」

 不安そうなヘンリー君は、シャーリーにおずおずと尋ねると、シャーリーは壁の上の方を指さしました。そこには、取ってつけたようなパイプが壁から生えていました。
 パイプの直径は、女性の腕より少し細い程度でしょうか。それほど太くはありませんでいた。

「ヘンリー君。あのパイプはいつからあるの?」

「換気のためと、義父が取り付けさせたものです。たしか……兄の婚約が決まった後だったと思います」

 ヘンリー君は首をひねりながら、なんとか思い出してシャーリー
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6..9]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33