大賀さんなんてタイプじゃない

 俺の名前は、飯田恭平。ごく普通の高校生だ。

 学校の成績も中の中。運動神経も中の中。体格も中肉中背。顔も平凡。よくモブ顔とか言われるぐらい特徴がない。口の悪い友達は、特徴がないのが特徴とか言いやがる。まったく、失礼な奴らだ。
 でも、俺自身、だからと言って、何か頑張っているわけじゃないからあんまり偉そうな事は言えないんだが。

 正直なところ、ぱっとしない自分に早々に見切りをつけたという感じだ。

 自分の中に何か特別なものが眠っているなんて可能性を信じてあがいたのは中一ぐらいまでだった。中二になるまでに中二病を完治したわけだ。

 だけど、これでも、子供のころは子供相応に大それた夢を持っていたんだ。

 子供の頃に、勇者が囚われのお姫様を助け出し、魔王を倒すというRPGが流行った。今思えば、かなりチープなストーリーだが、俺は将来、勇者になって、お姫様を助け出すんだって、夢と希望に燃えていた。
 と言っても、結局のところ、俺がやったのは、新聞紙を丸めた剣と、ダンボールで作った鎧を着て、家の中のタンスを開け回ったぐらいだ。それを母ちゃんに思いっきり怒られて、ゲームオーバーだ。それ以来、勇者の俺は教会で復活もされず、冒険の書は封印されている。

 この世界には現実に魔王がいるし、魔物の住む魔界もある。人間の住む世界にも数は少ないが魔物はいる。でも、魔物が人を襲うようなことは――性的な意味で以外はない。
 魔物は人間に非常に友好的だ。大昔は魔王や魔物を排除しようということがあったらしいが、今はそんな魔王を倒すなんて、時代錯誤もはなはだしい。今でもそんな事を言っているのはごく一部の過激思想のカルト教団ぐらいだ。
 だから、魔王を倒す勇者なんて子供だましの話としても、馬鹿げている話だ。
 そう考えると、子供のころに流行ったRPGなんて、よく販売できたなと思う。

 ともあれ、世の中というのを知ってしまって、俺の夢は終わった。まあ、始まってもいなかったんだが。

「恭平! いつまで寝てるの! いい加減に起きないと、学校に遅刻するわよ!」

 ラスボスの声がして、俺は時計を見た。

「7時……52分? やばっ!」

 俺はベッドから飛び起きて、ハンガーにかかっているカッターシャツを着た。

 8時に家を出ないと学校に遅刻する。なにより、こんな時間に起きたら、キキーモラのMof’sキッチンもゆっくり見れないじゃないか!

 俺は制服を着ると、急いで歯を磨いた。髪の毛をセットする暇はないから、とりあえず、寝癖だけを直した。

「恭平。朝ご飯は?」
「遅れるから、今日はいい」
「だめよ。朝をちゃんと食べないと。ほら! トースト焼いてあるから、これをかじりながら学校行きなさい」

 ジャムとマーガリンをたっぷり塗ったトーストを差し出された。確かに、朝を抜くと腹が減って、二時間目でガス欠になるが、だからと言って――

「そんな、みっともないことできるかよ」
「学校着くまでに食べればいいのよ。男子高校生なら余裕余裕」

 余裕とか、そういう問題じゃない。だけど、ここで押し問答してても、仕方ない。俺はトーストを受け取ってくわえると家を飛び出した。

 腕時計を見ると8時を2分も過ぎてる。走らないと間に合わないな、こりゃ。

 生まれてはじめて、トーストくわえながら走ったが、食べれない。走りながらものを食うのが、こんなに難しいなんて知らなかった。人生、なんでも経験が重要だな。

 トーストはほとんど食べれないまま通学路を半分ほどきたところにある、曲がり角を曲がった。

 曲がり角を曲がった俺の目の前に、突然、大きな人影が現れた。

「う、うわっ!」

 俺はその人影を避けきれずにぶつかってしまった。柔らかい感触がしたが、俺の体当たりにもびくともせず、俺だけが弾き飛ばされた。

「いてて……」

 俺が尻もちをついて、思いっきり打った腰をさすっていると、俺がぶつかった何かが覆いかぶさるように影を落としてきた。

「な、なんだ?」

 俺が見上げると、そこに立っていたのは魔物娘だった。

 実際に生で見るのは初めてだが、すぐにわかった。緑色の肌をして、額に角を生やしている人間なんていない。

 身長は俺よりも頭一つは高い。言っておくが、俺の身長も平凡だ。だけど、俺よりも大きな女なんてそうそう見ないから、かなりでかく見える。圧迫感、半端ねー。
 だけど、魔物娘は美人、美少女ばかりという話は本当のようだ。でかい女で、不良っぽい感じがして、正直俺の好みじゃないが美人なのは間違いない。肌の色や角とかあるのに、それが変に思えないぐらい美人だ。

 ていうか、この魔物娘が着ているのって、セーラー服の袖が引きちぎられてノースリーブになっていて、今まで気づかなかったけど、
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