竜騎士団本部棟と独身寮は、ドラゴニア皇国がドラゲイ帝国であった頃、大学として建てられた建物を利用していた。ドラゲイ帝国は、下層階級であった歩民と竜たちの反乱により倒された帝国ではあるが、その当時の建物がいまだに修繕されて使用されている。
竜騎士団本部棟は、大学時代は教室と教官の個室が集まった棟で、教室の広い部屋は竜たちが事務仕事や待機、ミーティングをする部屋として使われていた。
ユードラニナに案内されてザックがガイダンスを行う会議室に入ると、すでに会議室は大勢の竜たちが大勢いて、彼らが来るのを待ち構えていた。
「な、なんだ? みんな、講習を受けるのか?」
ザックは他の候補生、つまり人間はいると思っていたが、まさか竜たちがいるとは思わず驚いてユードラニナに小声で訊いた。
「新しい候補生というのは、フリーの男ということだ。自分を騎竜に選んでもらおうとアピールしに来るのは当然だろう?」
彼女は憮然とした声で質問に答えた。ザックは、彼女の機嫌の悪さの原因はわからなかったが、彼女があえて口にしなかった「竜たちによる自分の品定め」というのも含まれているのだということは理解した。
竜と言っても若い女の子たちである。きゃあきゃあとザックを見ては色々と近くの仲良しな竜たちと意見交換していた。
「この人が噂の……」
「もっと筋骨隆々の人かと思った。意外」
「ああ見えてという意外性があるのかも?」
「でも、足運びとか武術の才能は感じないよ?」
「わかった。魔術の方よ」
「なるほどー」
「顔は結構いい方だよね」
「私はもっとかわいいほうがいいな」
「あんたはショタ好きだしね」
「どんな声で鳴くのか聞いてみたーい」
ザックは、ワイバーンやドラゴン、ワームなど大勢の竜たちが自分を注目しているは人生二回目だが、品定めされているという状況の居心地の悪さは格別だと内心げんなりした。
「では、しっかりと講習を受けるんだぞ」
「案内してくれてありがとう、ユニ」
お礼を言うと、ユードラニナと別れて部屋の中央に置かれた机に座った。
それから程なくして、少しばかり疲れた顔のアルトイーリスが副官のノエルを伴って会議室にやってきた。
「おはようございます。騎士団長殿、副官殿」
ザックは立ち上がって挨拶をした。
「おはよう、ザック。それと、私を呼ぶときは、騎士団長、団長、アリィでいい。私個人としては三番目がお勧めだ」
顔から疲れを拭い去り、しゃきっとした態度で挨拶を返した。
「団長のたわごとはさて置き、あまり堅苦しいことはない職場だから、敬意を払っているなら呼び捨てでも何でも大丈夫です。人間の軍隊とは違うので」
ノエルが朗らかな笑顔で補足した。
「さてと。竜騎士に志願してくれて、改めてお礼を言う。竜騎士は万年人手不足なのでな」
アルトイーリスは軽く頭を下げた。
「竜騎士というのは、竜と共にあり、竜との絆をもって、ドラゴニア皇国、そして、魔物世界を守護する存在だ。壮大な話でぴんとこないかもしれないが、その責務は重大だと認識しておいてくれ」
一介の手伝い屋であったザックには大きすぎる話で、とりあえず、姿勢だけは正した。
「そう緊張する必要はない。端的に言うと、竜とイチャイチャして、みんなにラブラブなのを見せつけて、愛と平和を広げて欲しいというだけのことだ」
一気に壮大な話が身近に擦り寄ってきて、ザックは軽く苦笑いを浮かべた。
「先ほども言ったとおり、竜騎士に重要なのは竜との絆。自分の騎竜と心通わせることが何よりも大事なことだ。これだけは忘れないように」
「はい。肝に銘じます」
アルトイーリスが真面目な顔でザックに告げたので、真顔で返事をした。
「いい返事だ。さて、竜騎士になるのに知っておく必要があることがある。それは武器の扱いだ」
アルトイーリスがノエルの方を振り返ると、ノエルが突撃槍と呼ばれる種類の槍を差し出して手渡した。
突撃槍の全長は、大人の男の身長より頭一つか二つほどの長い槍で、全長の三分の二ほどが円錐型の穂先になっており、残りの三分の一が棒状の柄になっていた。淡い桃色をした銀色の槍は、魔界のものには珍しく、派手な装飾や意匠は施されていなかった。
「これが竜騎士の槍だ。正式には竜上槍と呼ばれるが、ドランスやただ単にランスと呼ばれることが多い」
アルトイーリスは、ザックに槍を受け取りに来るようにと呼び寄せた。ザックは前に出て槍を受け取ると、ずっしりした重みを両腕に感じた。大きさに比べればかなり軽いのだが、それでもザックには慣れない重みだった。
「この槍は練習用の槍だ。正式に竜騎士に叙任されると、本物の竜騎士の槍を下賜される。形も大きさも、それとほぼ同じものだから、今からし
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録